振動や音声で
視覚障がい者をナビゲートする

 2022年10月14日、東京・竹芝で、新興IT企業の成果発表コンテスト「VISI-ONEアクセラレータープログラム・デモデイ」の最終選考があった。1・2次選定を通過した6社の代表が製品やサービス、今後の事業展開について熱く語った(応募総数は41件)。6社に共通するのは、いずれも視覚障がい者をサポートする製品やサービスを開発したことだ。

 各社のプレゼンテーション終了後、日本パラスポーツ協会理事・日本パラリンピック委員会委員長の河合純一さんら計6人が審査を行い、Business Innovation Award(以下BIA)と Social Innovation Award(以下SIA)、2つの賞の受賞者が決定。主催者(参天製薬、日本ブラインドサッカー協会、インターナショナル・ブラインドフットボール・ファウンデーション)が賞金300万円をそれぞれに贈呈した。

「目薬の参天製薬」も注力、視覚障がい者をサポートする最新技術とは足を振動させて道案内する「あしらせ」/筆者提供

 BIAはアイデアの独自性や成長性、社会実装への実現性を審査基準とした賞。これを受賞したのが、自動車大手ホンダの新事業創出プログラムから創業したAshirase(栃木県宇都宮市)だ。

 同社が開発したのは視覚障がい者の靴にデバイスを取り付け、これを振動させることにより単独歩行をサポートするシステム「あしらせ」。たとえば、右折なら右足、左折なら左足、直進なら両足のデバイスが振動して道案内する。「販売ルートは検討中だが、来年の1~2月には発売したい。価格は6万~9万円の予定です」(同社・代表取締役CEO 千野歩さん)とのこと。今後は、ホテル、鉄道会社、テーマパークなどへの製品供給も考えているという。

 視覚障がいの課題への理解、共生社会の実現性を審査基準としたSIAは、東京大学発のスタートアップ、GATARI(東京都千代田区)が受賞した。

 同社はMR(複合現実)技術を活用したプラットフォーム「Auris(オーリス)」を公共・商業施設に提供。これにより、施設内に入りスマホのカメラを空中にかざすと、階段の数やコンビニの商品などの音声案内を受けることができる。

 また、Aurisは視覚障がい者だけでなく、晴眼者向けのエンタメコンテンツとしても導入されている。今年の夏季には東京ドームのお化け屋敷に提供された。「今後は体験型広告とのコラボや、サブスクの事業モデルも検討しています」(同社・代表取締役CEO 竹下俊一さん)とのこと。

「目薬の参天製薬」も注力、視覚障がい者をサポートする最新技術とは「Auris」が音声案内する際のイメージ/筆者提供

 受賞を逃した4社の製品・サービスも、サポートしようという意識が強く滲み出たものだ。「自販機は視覚障がい者にとってロシアンルーレット。何が出てくるかわからないから」というMAMORIO(東京都千代田区)は、近くに自販機があればそこまで誘導し、庫内の飲料品名を順番に読み上げるスマホアプリを開発している。

 iPhoneのカメラを使って歩行を支援するのが、コンピュータサイエンス研究所(福岡県北九州市)とリンクス(東京都港区)だ。前者はカメラが撮影した画像をAI解析する仕組みで、後者は点字ブロックに貼られたQRコードを読み取ることで目的地まで誘導する。

 AIで人間に近い高品質な読み上げソフトを開発したのがクラスリー(東京都杉並区)。オーディオブックの収録は煩雑な作業なので、今後は本の読み上げソフトに展開していきたいという。