個人のチャレンジは
日本にもいい影響をもたらす

 日本ではもともと、海外で勤務する人、または海外企業に勤務する人が圧倒的に少ないのです。一概に海外がよくて日本がダメというわけではありませんが、海外を知った上で日本をもう一度見直して、日本企業に入り直すといったことが一般的になれば、海外のいいところを取り入れられると思うのです。

 私が2000年代前半にマイクロソフトに勤務していた頃、インドに開発センターができ、1週間ほど出向いて滞在したことがあります。帰る前に現地の同僚と一緒に食事をして、いろいろな話をしたのですが、そのときに「日本では大学を卒業すると、どれくらいの割合の人が海外へ行くのか」と聞かれ、「海外に行く人は多分ほとんどいない」と答えると、とても驚かれました。正確な数字は忘れましたが、確か「インドなら半数近くが海外に行く」と言われたように記憶しています。

 インドでは海外と自国とを行き来する人が多いのです。インド工科大学をトップクラスで卒業したような人が、シリコンバレーの企業に就職し、インドに開発センターができたら戻ってくる。で、そのままそこにいるのかと思ったら、またシリコンバレーに行くこともあるし、別のインドのグローバルスタートアップへ移籍することもあります。

 こうしたことが繰り返されることで、インドのIT力は確実に上がっているのだと思います。同じような例は中国でも見ています。グローバルが素晴らしいということではないのですが、グローバルとローカルの架け橋になることや、外を知ることで自国の産業がどうあるべきかを考えられるようになるということは、やはり強いと思います。

 今は日本、あるいは行きたい場所から、日本の国籍を持ったまま、収入のよい国の仕事をすることができる時代です。物理的に移住するのはそれなりにハードルが高いことですが、リモートワークはそのハードルを一気に下げることを可能にしました。チャレンジすることでいろいろなタッチポイントを持つことができ、その経験がまた、日本にもいい影響を与えるのではないかと期待しています。

(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)