「隠れたIT先進国」ウクライナに学ぶ、ITを武器にした国家の生き残り戦略ロシアの脅威に晒されてきたウクライナは、国家を守るために強力な武器を生み出した(写真はイメージです) Photo:PIXTA

現在、ロシアによる侵攻を受けているウクライナが、実は隠れたIT立国としての顔を持つことをご存じだろうか。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏が、ウクライナをはじめとする東欧諸国でIT産業への転換が進んだ理由や、ウクライナ発のITスタートアップが持つダイナミズムなどについて解説する。

有力スタートアップを輩出
ウクライナ「IT先進国」の顔

 ロシアの侵攻により戦場と化したウクライナが、IT先進国としての顔を持ち、隠れたIT立国であることをご存じでしょうか。ウクライナはソフトウェア開発のアウトソーシング先として、ヨーロッパ各国や米国、日本からも頼られる存在であり、また優れたITスタートアップ創業者を数多く輩出する国でもあります。

 ウクライナでIT産業が盛んになったきっかけは、1991年のソビエト連邦崩壊に遡ります。ウクライナと言えば、小麦や畜産といった農業国のイメージが強い人も多いかと思いますが、製造業においても航空宇宙工学や原子力工学などの分野で科学技術力に強みを持つ国でした。ところがソ連崩壊とともに、そうした分野の産業の一部がロシアへ移管されるなどしたために、産業の空洞化が起きます。その空白を埋めるかたちで、90年代後半ごろからIT産業育成に力を入れるようになったのです。

 結果として情報技術の分野で優秀な人材が育つ大学が増え、卒業生は各国からソフトウェア開発をアウトソースというかたちで請け負うようになりました。また英語に長けている人材も多いため、他国へ移り住んで働く人たちも多いようです。こうしてウクライナでは、ソフトウェア開発力がグローバルで競争できるレベルへ高まっていきました。

 また、ソ連の支配下で抑圧されていた状況からベルリンの壁の崩壊を経て、自由化が進んだことにより、反動的にアントレプレナーシップ(起業家精神)が花開いたという事情もあるようです。