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昨年11月19日、福島市の市道で97歳の男性が運転する軽乗用車が、歩道を歩いていた40代女性をはね、死亡する事故が起きた。高齢者ドライバーの問題については2019年に起きた池袋の死亡事故の際に大々的にメディアに報道され、一時は高齢者の免許自主返納は増加傾向にあった。しかし、その後は2年連続で高齢者の免許自主返納率は低下している。この背景には、高齢ドライバーだからといって簡単に免許返納ができない実情があるようだ。(清談社 田中 慧)

高齢ドライバーの
免許返納数が減少した理由

 警察庁の発表によると、近年の自動車運転免許の返納者は、東京・池袋で高齢ドライバーによる母子ら死傷事故が起きた2019年には60万1022人と過去最多を記録したという。だが、その後は2年連続で減少しており、2021年の自主返納者数は51万7040人となった。

 この数字の変化について、認知症予防専門士・道路交通評論家で、長年高齢者ドライバーをめぐる問題を注視してきた中村拓司氏はこう分析する。

「返納の意思があってもコロナ禍で不要な外出を避けるために手続きを行っていない人や、単に次の免許更新のタイミングを待っている人もいるでしょう。一方で、コロナ禍では感染対策として公共交通機関を避けるため、若い人も含め免許取得率が上がり、当然、重症化しやすいと報道されていた高齢者も車を必要としました。また、特に地方は公共交通機関が少なく、都会でも郊外部など、車がないと生活できないエリアも多い。池袋の事故を受けて、誰もが頭に免許返納がよぎりつつも、やはり車の利便性がそれを上回っている状況です」