世に偏見は多いが「外科医は男性じゃなきゃダメ」という思い込みは結構、根強いのではないだろうか。
日本バプテスト病院外科副部長の大越香江氏らは、日本外科学会をはじめ外科系14学会が参画して構築されたNational ClinicalDatabase(NCD)のデータを利用し、男性医師と女性医師との間で短期的な手術成績を比較した。
対象は2013~17年に登録されたデータで、術式は胃がんの手術で行われる胃の下半分を切除し、十二指腸か小腸とつなぎ合わせる「幽門側胃切除術(DG)」「胃全摘術(TG)」、そして直腸がんの手術で行われる「直腸低位前方切除術(LAR)」の三つ。
これらについて(1)手術後30日以内の死亡率、(2)手術関連死亡または重度の合併症発生率、(3)胃の手術後に膵臓の消化酵素が漏れて孔が開く膵液瘻、または直腸切除後の縫合不全の3点の成績を執刀医の性別で比較した。
手術件数はDGが18万4238例、TGが8万3487例、LARが10万7721例で、いずれもおよそ95%は男性が執刀していた。ちなみに日本の女性医師の比率は全体の21.8%で、女性の消化器外科医は6%にすぎない。
今回の調査対象の女性消化器外科医は、概して男性より医師免許登録後の経験年数が少なく、訓練が必要な腹腔鏡手術の執刀割合が低いものの、高齢者や糖尿病患者など元々、術後合併症や死亡リスクが高い患者を担当していた。なかなか不利な条件下で奮闘、執刀している姿が目に浮かぶ。
さて、患者の条件や手術施設の規模などの影響を調整して手術成績を比較したところ、術後の死亡率や合併症率に執刀医の性別で有意な差はなかった。
大越氏は「手術トレーニングの機会や執刀数、昇進の機会などにおいて男女の平等が実現すれば、女性消化器外科医の技術はさらに向上すると思う」としている。
今、日本では外科医を志す若手が減少しており、医学生の半数を占める女性を蚊帳の外に置く余裕はない。世間の外科医=男性という偏見は、外科医療を崩壊させかねないことを肝に銘じたい。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)