応用演劇を取り入れて
社会的包摂を研究する
1978年静岡県生まれ。16歳で映画『Love Letter』で女優デビュー。17歳でドラマ『白線流し』シリーズで脚光を浴びる。以後、数々の映画、ドラマ、舞台、CMなどに出演。亜細亜大学経営学部卒業。29歳のとき、国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパンの親善大使に就任。31歳で結婚し翌年出産、41歳のときに大学院の国際協力研究科へ進学する。Photo by Masato Kato
2019年からは、社会人大学院の国際協力研究科での学びをスタートした。研究のテーマは社会学の領域であるソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)。
「社会的包摂とは、社会的排除と対になっている概念で、全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から解き放ち、健康で文化的な生活を実現させる理念のことです。私はそのような社会課題に応用演劇を活用しながら包摂する方法を模索しています」
そもそも大学院に通いたいと思ったのは、WVJの活動で世界の貧困地域を訪れながら、「なぜ問題が解決されないのだろう」という疑問が大きくなったからだ。「アカデミックな学びを通して国際協力を見つめ直したいと考えたのです」。
さらに21年3月からは、大手菓子メーカー「不二家」の社外取締役に就任している。任期は2年。話があったときには驚いたが、WVJの活動で培われた視点や、社会学的な観点から助言ができるのではないかと考えて引き受けることにした。「新しい扉を開くたびに、やりたいことが出てきちゃうタイプなんです」と酒井さんは言う。
別の視点を持つことで
今の自分に疑問を持てる
いくつもの役割を担う酒井さんだが、複数の立ち位置が生き方を充実させるという。
「人間はせめて二つ以上の役割があれば、バランス良く立つことができる。一つの物事に打ち込むのも素晴らしいのですが、別の視点を持つことで、今の自分に疑問を持つことができて、人間的に成長させてくれる。それは生業でなくて趣味でもいい。仕事のほかに打ち込めるものを持てば、人生は豊かになると思います」
女優業は、できるだけ長く続けたいと語る。
「おばあちゃんになっても女優を続けられていたら、ただベンチに座ってたたずんでいるだけで、誰もがその人生を想像できるような女優になりたいと思っています。しわが増えて背中が丸くなっても、全ての経験が私の中に取り込まれて、表情に滲み出るような女優。それが理想です」
これから社会に出る若者たちに伝えたいのは、チャレンジすることだ。
「今の日本は、クリエイティビティーが圧倒的に足りないと思っています。それは芸術分野に限らず、新しいものを考え出す力。考えなくても情報が入ってくる時代なので、考える機会が失われていると感じます。若い人たちは、自分の体験を通して新しいものを創造してほしい。そのためには失敗を恐れず、何事にもチャレンジしてほしいですね」