2社の価値観を貫く一つの言葉
ソニーグループは22年、Hondaとの協業を発表し、新会社「ソニー・ホンダモビリティ」を共に設立した。ソフトに強みを持つソニーと、ハードの知見に富み、量産化体制を持つHonda、互いの強みを持ち寄った形だ。業種は違えど、チャレンジ精神や好奇心といったマインドに共通点が多い両社だが、いざ顔を合わせると、文化の差異は当然ある。「車をつくる」と同時に「心をつくる」ことが急務といえた。
クリエイティブセンターが、ソニーグループを束ね上げるパーパスを監修した経験については前編で触れた。本プロジェクトでも、パーパスの策定は不可欠であると私たちは考えた。2社が、業種や文化の壁を越えて融合するには、思いを合わせる「言葉」が不可欠だ。それが、新しい組織体として外部に向けて放つべきブランドメッセージにもなっていく。
ブランディングに関しては、私たちにはこれまで蓄積した豊富な知見がある。これを新たなチームのリソースとして生かしたいと新会社のマネジメント陣に提案したところ、合意はすぐ得られ、新組織を束ねるパーパスの探求が始まった。
互いの上層部を含む全ての関係者にヒアリングし、ソニー、Honda双方の歴史の中で使われてきた言葉を徹底的に洗い出し、粘り強くワークショップを開催する。こうして見えてきたのは、「感動」を目指すソニーと、「移動」を追求するHondaの両社を貫く「人を動かす」という価値である。人を動かすには、自社を閉塞化せず、世界中のカスタマーやクリエイターと水平に繋がらねばなるまい。そして、そのみずみずしい知性や知覚を常に取り込み、可能性を拡張し続けることだ。こうして新会社のパーパス「多様な知で革新を追求し、人を動かす。」が誕生した。
もちろんプロダクト開発も並行して進んでいた。そこには「3A」(Autonomy:進化する自律性、Augmentation:身体・時空間の拡張、Affinity:人との協調、社会との共生)というコンセプトが設定される。パーパスとプロダクト、その両軸が定まる過程で2社の意識は速やかに融合した。そして今、プロジェクトが加速している。