日銀の正副総裁人事が
「岸田リスク」になり得る理由

 これが岸田首相によって行われることがリスクになり得ると考えるのは、過去の自民党総裁選時などに、岸田首相が安倍晋三元首相のいわゆるアベノミクスへの見直し方針を掲げていたことがあるからだ。その後、首相就任時にはマーケットへの影響を考えてか、金融政策の連続性を尊重する方針を打ち出したが、岸田首相の本音は金融緩和方針の見直しの方にあるように見える。

 また、岸田氏は時々の世間の評判に影響されやすいが、昨年の円安に関して「悪い円安論」がやかましく、黒田総裁が主犯であるかのような論調が少なからず存在した。そのことが、彼の決断に悪影響を与える可能性がある。

 日銀の金融政策は日本経済全体に大きく関わる問題なので、「投資家としては」といった狭い影響範囲からだけ考えるべき問題ではない。それでも、例えば投資家としては、アベノミクスの金融緩和を背景に上昇してきた株価や、内外の金融政策の差によって大きな影響を受けていると円の為替レートに対して、日銀の正副総裁人事は、その時直ちに与える影響が大きい可能性がある。また、その後に長期にわたって影響する可能性も大きい注目すべきイベントである。

問題は政策見直しの
「スピード」

 次期日銀総裁は誰か? 残念ながら現時点では分からない。現在名前が挙がっているのは日銀プロパー出身者や財務省関係者、あるいは一種のメッセージ効果が伴う女性などだ。ただ、こうした「世間の噂に上る総裁候補」は、いずれも積極的な金融緩和論者である現在の黒田総裁の路線を、相対的には金融引き締め方向に修正することを示唆する人物たちに見える。

 失礼ながら、誰でも大差はない。任命者の意図に従い、組織の空気に逆らわない、凡庸な大人であり組織人ではなかろうか。

 現時点では、岸田首相が指名する日銀の次期総裁および新体制は「金融緩和の見直し」を真意とするものであると決め打ちしていいだろう。黒田現総裁の金融緩和政策に(心から)賛成するような金融緩和積極論者は「リフレ派」と呼ばれるが、リフレ派の人物が総裁に任命されることはないだろう。