日銀の新体制に
期待する3項目とは?

 せっかく新体制が発足するのだから、新しい日銀総裁への要望事項を三つ述べておきたい。

 一つ目は、金融緩和政策の十分な維持継続だ。日銀としてはもちろん、経済政策全体として目指しているはずのマイルドなインフレ状態が十分達成されるように、粘り強く金融緩和を続けてほしい。

 かつての(06年の)、福井俊彦元日銀総裁の早過ぎたゼロ金利解除などを見るに、特に旧来の日銀マンは「できることなら利上げをやってみたい」という半ば本能的な欲求を持っているようだ。利上げをしないまでも「せっかく着任したのだから新しいことをしたい」という自意識が働くことも、人間としては自然だが、こうした煩悩を抑え込みながらプロとして金融政策に臨んでほしい。

 二つ目は、「期待に働きかける」コミュニケーションのやり方を変えることを検討してほしい。

 これまで、「日銀は2%インフレを作ることができるので、国民の皆さんは2%のインフレになると思って行動するといい」という趣旨のメッセージを発し続けてきた。当初は一定の効果があったように思うが、その後に、こうしたメッセージを出し続けなければいけない立場に日銀が自らを追い込んだことが、他の適切な政策(主に金融緩和に協力的な財政政策だ)を要求する議論につながらない事態を生んだ。さらには、日銀自身の手段として不適切な政策(上場投資信託〈ETF〉買い入れ、目標を提示したイールドカーブ・コントロール政策)につながったように思う。次期体制には「もっと率直なコミュニケーションの言語」を開発してほしい。

 三つ目は、「財務省に直言できる日銀」の実現だ。黒田総裁時代に望ましい形で早く「インフレ率2%」が達成できなかった背景には、消費税の増税などによる財政政策の問題が大きかった。特に、政策金利がゼロに達して日銀の当座預金残高が積み上がるような状態では、金融緩和の効果に与える財政政策の影響が大きい。

 不文律らしいので根拠を上げることが難しいのだが、これまでおよび現在の日銀には、財務省の財政政策に対して口を出さない不文律があるように見受けられる。「日銀の独立性」を尊重してもらうための引き換え条件的なニュアンスなのだろうか。

 しかし、日銀と政府のアコード締結からも分かるように、金融政策と財政政策は共通の目的のために両方を関連付けながら最適化して用いるべきだ。日銀は専門的な見地から、財務省の財政政策に対する注文と議論を「国民に対してオープンな形で」投げかけてほしい。

 筆者は、マクロ・ミクロ両面で日本の財政、すなわち財務省のあり方に大いに問題があると思っている。全く個人的な思い込みだが、テレビのニュースなどでウクライナの報道を見ると、ロシアの戦車に「Z」のマークが描かれているのを見かけるが、このZが「財務省のZ」に見えて仕方がない。

 現在、より大きな問題を抱えているのは、BOJ(=日銀)よりもZ(=財務省)の方なのではないだろうか。