就職先として安定した業界
過去20年は倒産ゼロ
就職先としては、経営が安定しており、長く勤められる環境だ。実際、過去20年を見ても、倒産した会社はなく、収支が赤字になったとしても単年程度。国内では薬価の改定が進み、収益を圧迫しているが、改定幅は海外に比べるとまだ小さく、影響は限定的だ。
今後、薬の生産体制の効率化は必須だが、「海外でたくさん売れる薬を一つ、二つ開発できれば、10年は食べていける」(クレディ・スイス証券の酒井文義シニアアナリスト)のが実態だ。
理系では、薬学や化学、合成化学を専攻してきた人が大学の研究室のつながりで就職するケースが多い。
就職後は専門分野を深め、論文を書いたり、研究所でこつこつと研究を重ねたりする。かつては自由に研究させるような機会があったが、今はない。徹夜で試験管を振って新薬を見つけ出す、というような時代ではない。
各社が、研究成果のデータベースのような「化合物バンク」を持ち、そこから有望なリード化合物を作り出す、というシステマチックで効率的な開発手法になっている。このようなプラットフォームから芋づる式に開発する研究が主力だ。
他にも文系を中心に、大学病院やクリニックを訪問し、製品の営業を行うMR職がある。
デジタルマーケティングが主流になってきているが、対面活動も残っている。特に新薬の説明は人が営業する方がいい。
MRの採用数は縮小傾向にあるが、退職による自然減や大量補充をしないことで数を抑えている。
今後、能力給の導入などでめりはりが付けられる可能性はあるが、終身雇用の形が大きく変わらなければ、年功序列の賃金体系は崩れず、待遇は高水準のままだろう。
業界再編も現実的ではない。ロシュと中外製薬が合併した好例を最後に、国内大手同士の合併は進んでいない。その理由を、酒井氏は、「国内製薬では、弱肉強食の発想がない」と説明する。
根本に、常に対等を意識する性質があるため、合併したとしても弱いところを捨て切れず、効率的に成果を出すには時間が掛かってしまうというのだ。
海外勢が国内勢にわざわざ手を出すメリットも小さい。大手の欧州企業は既に日本に進出済みのため、彼らが国内大手とこれから手を組むとは考えにくいのだ。
海外大手はむしろ、メガバイオベンチャーを買収する方がビジネスを拡大できる。