山口県阿武町が誤って振り込んだ新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金4630万円を別の口座に振り替えたとして、電子計算機使用詐欺罪に問われた田口翔被告(24)の判決が28日、山口地裁で言い渡される。昨年12月の公判で検察側は「犯行は大胆で悪質」として懲役4年6月を求刑し、弁護側は「同罪は成立しない」として無罪を主張。日本国内を驚かせたものの、誤給付された全額が阿武町に返金され、実質的に被害者が存在しないこの事件の行方はどうなるのか。小松本卓裁判官の判断が注目される。(事件ジャーナリスト 戸田一法)
検察側の主張は
「最高裁判例で詐欺罪成立」
起訴状によると田口被告は昨年4月8日~18日、4630万円が誤給付であると知りながらオンラインカジノサービスを利用するため、決済代行業者の口座へ計34回にわたり振り替え、不法に利益を得たとされる。
田口被告が問われた「電子計算機使用詐欺罪」は、一般的に聞き慣れない罪だが、犯罪の構成要件は一般的な詐欺罪と同じで、他人をだまして金品を受け取ったり、不法な利益を得たりする行為を指す。
ただ事件として難解になっているのが、金融機関の決済システムを悪用して詐取したという構図で、被害者が阿武町ではなく、田口被告が口座を持つ金融機関だということも一般の方々には分かりにくいようだ。
同罪は振り替えなどを依頼する正当な権限がないのに、ネットバンクのシステムに「虚偽の情報」を入力し、不法に利益を得た場合に成立するというのが司法関係者の一般的な見方だ。
検察側は論告で、誤って振り込まれたと知りながら、その事実を金融機関に告知せず払い戻すことを「欺罔(ぎもう)行為」(相手をだまして錯誤に陥れることや、相手を欺く行為)と認定した2003年の刑事事件における最高裁判例などを引用。
その上で誤給付と認識していながらその事実を金融機関に告知せず、正当な権限もないのに振り替えを依頼した行為が虚偽情報の入力に該当し、同罪は成立すると主張した。
補足すれば、田口被告の口座に振り込まれたとはいえ、そのお金は田口被告のものではないので、一時的に金融機関の管理下にあったと言える。また自分の口座とは言え、阿武町職員から「誤給付」と告げられて他人のお金だと認識しているのに、勝手に口座から振り替えた行為を検察側は不法な利益に当たると判断したわけだ。