「幼いときから自宅の和室を工作室に改造し、厚紙や廃材、木の板でいろんなものを作ったり、造形教室に通ったりもしましたが、工作も絵も、同じ材料を使って同じような作り方、描き方をしても、習熟していないと同じものはできないし、材料によって、質も変わってくる。ところが、プログラミングの場合、コードが同じなら同じアプリケーションが作れます。コンピュータさえあれば、他に何もなくても、ゼロの状態からいきなり同じクオリティのものをいくつも作ることができる。そこが面白かったです」

 デジタル時代ならではのクリエイティブな世界の魅力に、小学生にして気づいてしまったわけだ。

 Tech Kids Schoolのカリキュラムを修了した後は、Life is Tech!という中高生向けのプログラミング教室に入ろうと思ったが、中学受験が目前だった。母親が事情を語る。

「通っていた小学校は同級生の大半が中学受験するので、嶺も受験すると決めていました。両親ともに公立高校出身なので、何が何でも私立中学へとは考えていませんでした。ただ、受験するからには自分を活かせる学校に進学してほしい。全力で頑張って入れなければ、公立で切磋琢磨するのもいい。プログラミング教室の授業回数を増やしたいと嶺が言ったときも、人生設計を自分で考えて、勉強もちゃんとやることと条件を付けたんです」

プログラミング歴1年で、コンテストに応募

 ところが、思惑通りには進まなかった。大塚さんが、あるコンテストに目を付けたからだ。

「Tech Kids Schoolを辞める日に、『こんなのがあるよ』と小学生でも参加できるコンテストのチラシを何枚か渡されたんです。その中に『未踏ジュニア』のチラシがありました」

 未踏ジュニアとは、「独創的なアイデア、卓越した技術を持つ17歳以下の小中高生及び高専生を支援するプログラム」(「未踏ジュニアとは」https://jr.mitou.org/aboutより)で、採択されると、各界で活躍するエンジニア・専門家の指導と、50万円を上限とする開発資金の援助を受けて、新たなソフトウェアやハードウェアを開発できる。同じ「未踏」を冠する事業として有名な未踏IT人材発掘・育成事業は、経済産業省所管の独立行政法人情報処理推進機構が主催する25歳以下の若者を支援するプログラムだが、未踏ジュニアの方は協賛企業の支援の下、未踏卒業生によりボランティアで運営されている。

 大塚さんは受験勉強にも取り組む約束をした上で、応募することにした。

 申請書類には、自分が開発したいもののアイデアを記す必要がある。しかもそれは独創的でなければならない。大人なら、プログラミング歴1年で世の中にまだ存在しないものを生み出そうなんて思わないかもしれない。しかし小学生ならではの大胆さというべきか、大塚さんは臆せず、自分のプログラミングの知識を活かして何が作れるかを考えはじめた。