ベトナムの2022年の実質経済成長率は8.02%と、1997年以来の高い伸びとなった。しかし、23年は一転、大幅に減速しそうだ。インフレの高進による物価高・金利高で消費が冷え込み、インフレ抑制のための利上げで海外経済が減速することが輸出の足かせとなる。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)
主要国の利上げで資金流出
ドン安が進行
ここ数年のベトナムには、米中摩擦の激化による『漁夫の利』を最も得るポジションにあることもあり、世界的に注目を集める国のひとつとなっている。
コロナ禍に際しても当初の段階で封じ込めに成功するとともに、比較的早期に立ち直る様相を見せていた。しかし、2021年にはコロナ禍が再燃したことを受けて、景気も大きく下振れして20年よりも新型コロナウイルスス感染拡大の影響が色濃く表れる事態となった。
一方、22年以降はワクチン接種が進んだことに加え、国民の平均年齢が低く重篤化しにくいことなどを理由に、コロナ禍をエンデミック(一定の季節や地域に流行する感染症)と見なすとともに、ポスト・コロナに向けて経済活動の正常化を図る動きをみせてきた。
こうした状況ながら、同国経済は構造面で外需依存度が比較的高い上、輸出の約2割を中国(含む香港、およびマカオ)向けが占めるなど中国の景気動向に左右される傾向があり、中国による『動態ゼロコロナ』への拘泥とそれに伴う景気減速がベトナム経済の足を引っ張った。
事実、22年7~9月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前年同期比13.71%(改定値)と四半期ベースで過去最大の伸びとなったものの、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率はマイナスとなるなど、景気実態は『踊り場』状態となったことに表れている。
ウクライナ情勢の悪化による供給不安を理由とする国際商品市況の上振れが世界的なインフレを招くなか、国際金融市場ではFRB(米連邦準備制度理事会)など主要国の中央銀行がタカ派傾斜を強めたことで世界的なマネーフローに影響が出ている。経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱(ぜいじゃく)な国々を中心に、多くの新興国から資金流出に拍車がかかった。
ベトナムにおいてもインフレが加速して中銀の定めるインフレ目標(4%)を上回る推移が続いていたことに加え、通貨ドンは管理変動相場制を採用しており、こうした局面においては資金流出にさらされやすい特徴がある。