ウクライナ紛争や中国のゼロコロナ政策、米国の金利上昇……。これらの問題は先進国にも大問題だが、新興国にとっては台風なみの逆風となる。果たして2023年の新興国経済は踏み留まることができるのか。特集『総予測2023』の本稿では、第一生命経済研究所の西濵徹氏に23年の新興国経済について解説してもらった。
中国のゼロコロナ政策の継続が
アジア新興国の回復の足かせに
2022年の世界経済は、中国による「動態ゼロコロナ(※)」戦略への拘泥に加え、ウクライナ情勢を巡る不安定な状況が長期化していることに揺さぶられる展開が続いてきた。
動態ゼロコロナ戦略の影響は、その厳格な行動制限により、中国国内で幅広く経済活動に悪影響が出ているだけではない。サプライチェーンの混乱を通じた生産活動への悪影響はASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国をはじめとするアジア新興国など中国と連動性の高い国々に伝播する事態となっている。
さらに、世界的にはコロナ禍の克服の動きとともに外国人観光客数が底入れしているが、中国人観光客数は引き続き低調に推移している。中国人観光客への依存度が高いアジア新興国などにとって景気回復の足かせとなる。
このように、財およびサービスの両面で中国経済への依存度が高い新興国にとって景気の足を引っ張られる状況が続いている。
さらに、ウクライナ情勢の悪化は世界の穀物輸出の約3分の1を占めるロシアおよびウクライナからの供給懸念を招いている。その結果、需給逼迫を理由に全世界的に食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレが起こっている。
FRB(米連邦準備制度理事会)など主要国中央銀行のタカ派傾斜の動きは、米ドル高を通じて新興国からの資金流出を引き起こした。資金流出に伴う新興国の通貨安は、輸入物価の上昇を通じて一段のインフレ高進を招く状況に陥る懸念を高めている。
こうした事態を受けて、多くの新興国は物価のみならず、為替の安定を目的とする金融引き締めを迫られている。結果的に物価高と金利高の共存が実質購買力を低下させ、景気に冷や水を浴びせる懸念が高まってきている。
不安要素が山積しており、先進国以上に厳しい状況となりそうな23年の新興国経済。処方箋はあるのか。それとも危機的状況に陥ってしまうのか。次ページでは不安要素を解説しつつ、起こりうるシナリオについて分析する。