「円高の逆襲」継続へ、背景に米国のインフレ鎮静化と日本の出遅れインフレ仮に1%ポイントの日米金利格差縮小なら外為市場は12~13円程度の円高・ドル安で反応か Photo:Reuters/AFLO

 引き続き金融市場は米国や日欧のインフレと金利動向に過敏に反応する動きを示している。1月17~18日の日銀金融政策決定会合では、昨年12月に変更されたイールドカーブ・コントロール(YCC)の10年物国債利回りのレンジ上下0.5%は「変更なし」と発表された。

 しかしレンジの引き上げを見込んでいた海外筋中心の日本国債10年物の売りポジションやそれに合わせた外為市場での短期的な円買い持ち高が相当積み上がっていたようだ。その結果、日銀の発表後、損切りの円売りでドル円相場は128円台から一気に131円台まで跳ね上がった。その後は米国の景気鈍化の思惑が強まり、米国長期金利の低下に連れて再び128円前後まで円高・ドル安が進む荒い展開となった。

 筆者は、2023年は円高に回帰する年になると予想していたが、それはドル金利の低下が展望されるようになる主に年後半かと思っていた。ところが米国のインフレ鎮静化への動きと、遅れてインフレが進む日本の動きが交差して、日米金利格差縮小の予想が強まり、円高への回帰が予想より早く進む可能性が強まっているようだ。今回はこの点を考えよう。

米国の高インフレとグローバル・サプライチェーンの関係

 まず米国のインフレが2021年から2022年にかけて米連邦準備理事会(FRB)の予測を大幅に超えたものになった主因については、昨年10月の論考で次の3点からなる筆者の読み解きを述べた(「米国の高インフレはなぜFRBの予想を超えたのか、その意外な真相2022年10月17日掲載)。

 第1に、新型コロナ不況への対応として2020年に失業手当割増や中小企業支援のために実施された財政支出による巨額給付が家計の可処分所得を押し上げた。第2に、新型コロナへの恐怖心が薄らいで、可処分所得増が消費需要として顕現化してきた2021年春以降に労働力の供給が減少し賃金が上昇、「賃金上昇→物価上昇」の経路が開いた。第3に、2022年2月のロシアのウクライナ軍事侵攻が国際的なエネルギー・食料価格を高騰させた。

 ただし、このときの分析に加えることができなかった要因が1つある。2021年から2022年にかけて米国を中心に世界的な物流の遅延・混乱が生じたことを思い出していただきたい。これは新型コロナ感染が世界中に広がり、運輸に十分な人手が確保できなくなったことが主因だった。