ビジネスパーソンにとって、何が起きても冷静に対応し、ミッションを成功に導くために必要なのが未来を見通す力だ。未来を予測していればこそ、トラブルや予想外の事象に対応できる。軍事戦略を立てるためにアメリカで研究された手法だが、ビジネスパーソンにも間違いなく役立つスキルだ。元防衛省情報分析官の上田篤盛は、集めた情報を過去から現在まで年代順に並べて因果関係を把握する「クロノロジー分析」からスタートするという。本稿は、上田篤盛『超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル - 仕事で使える5つの極秘技術 - 』(ワニブックス)の一部を抜粋・編集したものです。
未来予測はクロノロジー分析から始める
私は、ビジネスパーソン向けの「情報分析講座」では、過去のデータや情報から、現在の問題解決や、未来を予測する手法としてクロノロジー分析が重要であることを強調する。
しかし、みなさん「クロノロジー分析とはいったい何?」という感じであり、私にとってはありふれたなんの変哲もない分析手法が、わりと新鮮に映るようである。私は以前、ある「情報分析講座」で北朝鮮問題を題材にした。この際、1950年の朝鮮戦争の終了時点から現在までの約70年にわたり、A4で約15枚に及ぶクロノロジーを作成した。
実は、私の情報分析の中で、クロノロジーの作成は全分析工程の6割以上の労力を占める。「急がば回れ」ということで、結局は地道なクロノロジー分析が一番早く答えを導いてくれる。
この「情報分析講座」のまっただ中、米朝首脳会談 (2018年6月)が予定され、「北朝鮮は核兵器を放棄するのではないか」との憶測が飛び交っていた。
そこで、私は、核開発をめぐるクロノロジーから、
・IAEAの査察拒否 (2002.12)→
・NPT即時脱退(2003.1)→
・第一回六カ国協議 (2003.8)→
・長距離弾道ミサイル発射 (2006.7)→
・核実験 (2006.10)→
・第五回六カ国協議第三次会合における原子炉停止
・同年末の核開発活動のすべてを公表することの確約 (2007.2)
という流れを抽出した。
ここには北朝鮮が硬軟両用の“のらりくらり戦略”で核ミサイルを開発してきた歴史が読み取れる。
この傾向から、北朝鮮は米朝首脳会談を控えて、非核化を匂わせる穏健政策を表明しているが、「完全放棄の蓋然性は著しく低い。関係改善の演出の水面下では、未完成と見られるICBMのさらなる開発、日本などに指向する中距離ミサイルの性能向上を企図する可能性は排除されない」と判断した。
今まさに北朝鮮が中距離ミサイル等の実験を行なっていることはみなさんもご承知の通りであるが、これはクロノロジー分析から導き出した未来予測である。
クロノロジー分析の意味
少し、まとめよう。歴史は繰り返すと言うが、そのまま同じことが起こることはない。そう考えると、クロノロジー分析の意味は大きく3つある。
・類似した出来事が起こる傾向を見つける
・どんなことが影響を及ぼし、歴史をつくっていくのかを理解する
・ドライビングフォース(推進力)を基準にして未来を予測する