ビジネスマンであれば、「リーガルマインド」という言葉を一度は耳にしたことがあるはず。しかし、一体どんな能力なのかよくわからない……というのが実感ではないだろうか。しかし、リーガルマインドが一度身につけば、トラブル解決や説得・交渉、さらには文章を書くことや講演といった仕事にまで活かすことができる。大げさにいえば、「自分考えを上手に伝える」「相手の考え方を理解できる」といった力にもつながり、人生を切り開くための大きな武器になってくれるものだ。これからのビジネスマンに必須能力ともいえる「リーガルマインド」の正体に迫る。
法制局で過ごした不安な日々
私は大学卒業後、約15年の間、衆議院法制局で法律案や修正案の作成に携わってきました。今でこそ、法律関係の本や記事を執筆したり、講演活動や講師としての仕事を生業としていますが、かつてはリーガルマインドの正体さえよくわかっていませんでした。
法制局に入局したての話です。一番、びっくりしたのが、自分が全く仕事の役に立たないということでした。学生時代、一応、法律は得意だと思っていました。公務員試験のための勉強もしました。ところが、条文を立案する会議などに出ても何が論点なのかわからない……。それ以前に、同僚が何をいっているのかわからない日々が続くのです。
来る日も来る日もそうでしたので、なんだか、自分がここ(法制局)にいてはいけないような気がして不安になりました。あまりにも不安になって上司に「どうすればいいですか?」と聞くと、「何もしなくていいよ、そのうち慣れるよ」と言ってくれます。しかし、チンプンカンプンな議論が飛び交う会議はそれから1年近く続きます。
それでも、会議に出続けていると、次第にメモがとれるようになりました。そして、少しずつですが、会議で飛び交う議論が分かるようになってきました。6,7年もすると、みんなが指摘する問題点を自分も理解できたり、自分の指摘に上司が頷いてくれるようになりました。
その後、少し遅れて大きな変化が起こりました。条文を読んでも、法律の解説を読んでも、法律の考え方について議論しても、みんなと同じ「ベース」がつかめたという安ど感みたいなものが生まれたのです。人はそれぞれ感じ方が違うわけだけれども、誰もが「これはそうだ」と思う筋道の通し方というか、要素みたいなものがあり、法律や判例などはそれによって成り立っているような気がしてきたのです。もしかしたら、自分のなかにもリーガルマインドが生まれ始めたのかもしれない……。そう思ってとても嬉しくなったことを覚えています。