復田と地域復興を目指し、ファントムブルワリーで福島の地酒造り
ビール界では自分の醸造所を持たず、他の醸造所を借りて造ることをファントム(幽霊)ブルワリーと呼ぶ。その名を日本酒で名乗るのが立川哲之さんだ。福島第一原子力発電所から17kmの南相馬市小高区で、2022年7月に創業。発酵する泡の様子と福島の「ふく」を掛けて「ぷくぷく醸造」と名付けた。立川さんは筑波大学の学生時代に、日本酒に出合いとりこになった。同時期、東日本大震災の被災地へボランティアで通い、福島県沿岸の相双地域に酒蔵がなくなったことを知る。卒業後、いったんは就職するが辞めて、宮城県名取市閖上の佐々木酒造店で3年修業。最後の年に醸造設備を借り、自分のレシピで酒を造って完売した。ビール醸造所でも経験を積み、21年2月にクラフトサケで起業した南相馬市のhaccoba(はっこうば)で醸造長に就任。東北に伝わるどぶろくの花酛(はなもと)造りをヒントに、ホップを配合した爽やかな酒を商品化する。「昔のどぶろくは粟(あわ)や稗(ひえ)、木の実、山葡萄(ぶどう)を加えたりと自由で個性豊かだった」と立川さん。