当然ながら、いまだに政治と経済を別ものとして捉える動きは日本企業内に根強いが、経済安全保障の重要性が近年内外で取り上げられるように、今日、経済や貿易というドメインは国家間紛争の主戦場になっている。言い換えれば、国際政治・安全保障の関心が再び国家間イシューに回帰するなか、その対立や衝突によって先行して影響を受けるのは企業とも言える。
そして、企業は今回のビザ発給停止という問題を、単に“水際対策強化→ビザ発給停止”という枠内でとどめるのではなく、流動的に情勢が変化する米中対立や台湾情勢、日中関係という中で戦略的に考えていく必要がある。
日中摩擦のさらなる激化で
影響を受ける品目は
不確実性や不透明性があふれる今日、米中対立や台湾情勢の行方を占うことは簡単ではない。しかし、高い確率で言えるのは、米中が互いに戦略的競争相手と位置づけ、米国は現状維持を、中国が現状打破を目指す姿勢をそれぞれ覆す可能性はゼロに等しく、米中の競争、対立は長期的に続くということだ。
また、中国の太平洋進出を抑える意味で台湾は米国にとって最前線となっており、同問題は中国だけでなく米国にとっても核心的利益になっていると言え、米中台間の緊張も続くことだろう。さらに、日本は米国の同盟国で外交基軸も日米関係にあることから、今後も政治と経済の両面で米国との関係を基軸に進めていくことになる。
そうなれば、日中関係で対話を継続し、関係の維持発展を目指すことが重要であるのは言うまでもないが、企業は今後の日中関係の中で摩擦や対立が生じ、その影響が経済・貿易のドメインに及ぶという前提に立って経営戦略を考える必要があろう。
過去にも、日中関係で摩擦が生じた際、中国側が対抗措置を取ってきたことがある。2010年9月には、沖縄県・尖閣諸島で中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突して中国人船長が逮捕されたことがきっかけで、中国は対抗措置として日本向けのレアアースの輸出を突然停止した。2005年4月には、当時の小泉首相が靖国神社を参拝したことにより、中国では反日感情が高まり各地で日本製品の不買運動が発生した。