江戸時代にあった
「初物四天王」

 初物ブームが生まれた江戸時代には、「初物四天王」と呼ばれる食材があった。

 まずはその筆頭をなすのが、今でもご存じの初鰹。“勝男”と当て字され、戦国の武家社会から縁起のいい魚と伝わった。

 初鰹とは、春先に漁獲されるものだ。ちなみに、戻り鰹とは、秋頃のものになる。鰹は回遊魚であり、春に北上して秋に成長して戻る。そのため、初鰹は脂肪分が少なくさっぱりした味わい、戻り鰹は脂が乗った味わいと、味の違いが楽しめる。

 初鰹の場合には、750日も長生きするとさえもいわれていた。

「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」と松尾芭蕉と同門の俳人、山口素堂が詠んだ。初物の鰹を味わえる、春から初夏を迎える素晴らしさを表現している。

 初鰹人気が最も高まる江戸末期には、その1本を人気歌舞伎役者の中村歌右衛門が3両(約40万円)で買い取る逸話も残っていた。

 続いては、初鮭。古くから多く獲れて、日本人に親しみのある食材だ。東日本では、大みそかの年越しに年取り魚とされたりしてきた。

 さらには、初茸。茸=キノコではなく、松茸のことである。室町時代の晩年に松茸狩りが始まり、江戸時代にはその美味を庶民も小ぶりなものではあるが楽しんでいた。松尾芭蕉も「初茸や まだ日数経ぬ 秋の露」と詠んでいた。これは、秋に松茸を待ちわびている情景を現したものだ。

 最後は、初茄子。初夢で見ると縁起が良い「一富士、二鷹、三茄子(さんなすび)」という言葉からもわかるとおり、昔から茄子は縁起物であった。これは事を“成す”と掛け合わせからきている。

 この四天王以外にも、一般的に、初物といえば、お茶やサンマ、山菜や筍などが挙げられるだろう。

 なお、今でいえば、ボジョレ・ヌーボーも同様ではないだろうか。よく知られているとおり、これはフランス・ボジョレ地方で、その年に収穫した新酒のワインのこと。毎年、11月第3木曜日の0時に解禁される。時差の関係で、日本はフランスよりも数時間早く解禁になる。これを日本の輸入商社や広告代理店が仕掛けたため、解禁イベントが大々的に行われるようになったようだ。しかし、私のフランスの知人は1人を除いて、誰も知らなかった。初物好きの日本人が作ったブームといえよう。