クリエイティブの本質は「発見と再構築」である

――デザインの役割が拡張していくと事業部門との「重なり」も大きくなります。連携には苦労もあるのではないでしょうか。

 かみ合いにくい部分はありますね。事業部門は一定期間内に一定スケールまでビジネスを成長させるという重い責任を背負っています。一方、デザイナーは顧客やエンドユーザーに意識が向いて、数字のことを考えたがらない。私はデザイナー側に「それで顧客はお金を落としてくれるのか?」を常に問うようにしています。事業は収益がなければ持続しませんし、デザイナーには、サービスと顧客のエンゲージメントに貢献して収益につなげる責任があります。

対話を重ね、人間中心の価値創造を社内に根付かせるAkiko Hiraga
コニカミノルタ 執行役員/デザインセンター長
彫刻家を夢想していたが、高校生時代にアートと産業をつなぐ職業を知り、千葉大学工学部入学、工業デザインを専攻。主に精密機器のプロダクトデザイン開発に従事後、インハウスデザイン部門長を経て、現在に至る。国内外デザイン賞受賞。デザイン部門をR&D本部所属から社長直下に変え、独自の価値創造の方法論の構築などクリエイティブな経営を目指し、デザイン経営を推進中。
慶応義塾大学SFC環境情報学科特別招聘助教授(1996~2000)。

――社内外にデザインの理解を広げるために意識していることはありますか。

 デザインやクリエイティブというと、「絵を描いたり、きれいなものを作ったりする」というイメージがまだ強いので、「デザイン思考を身に付けよう」「クリエイティブになろう」と言うだけではうまく伝わりません。経理や法務の人たちは「自分には関係ない」と思うでしょうし、技術者には「非科学的で遠回りな活動だ」と思われることもあります。

 そこで、私はクリエイティブを「発見と再構築」と定義して伝えるようにしています。何かを観察し、新たな何かに気付き、今までの仕組みを変えてみること。自分が今やっていることが、本当にこれでいいのかを問い、より良い方法があれば再構築を試みること。このような定義なら、あらゆる職種の方に届くのかなと。

――デザインの役割を前向きに拡張するためには、「デザイン」という言葉の多義性を踏まえたコミュニケーションが重要ですね。

 「デザイン経営」という言葉が広がったことで、ブランディングやイノベーションにデザインが貢献できるという認識はかなり進んだと思います。しかし、デザイン経営という概念が生まれる以前から、ブランディングは宣伝部門やマーケティング部門が、イノベーションは技術部門が……というように、既存の組織内で分散的に担われてきた実態があります。コーポレート系の専門部署でも、「技術経営」や「知財経営」「環境経営」「健康経営」「ダイバーシティ経営」など、企業内組織を横断する経営方針が打ち出され、さまざまな試みが行われてきました。

 こうした既存の「○○経営」という成長戦略の本質を取り込みながら、デザイン経営の姿を明示し、行動に移していくことが大事だと思っています。「デザイン思考」では、多様性を大切にします。既存のものを否定したり、異なるものと敵対したりするのではなく、反対意見やさまざまな異なる考え方を全て受け入れた上でどうするかを考えること。それがデザインを推進していく上で非常に重要だと考えています。