人件費削減のため、定年退職後の再雇用はなし？

　Aの返答を聞いたB部長の顔が曇った。

「ウチの大口得意先である乙社が近々倒産するって話は知ってるよね？」
「ええ。乙社の経営状態がかなり悪いことは以前から聞いています」
「となると、乙社を失ったことで今年の会社の売上はかなり落ち込むだろう。そこで社長と相談して、今からその穴埋めに備えて諸経費の削減をすることにした」
「それは大変ですねえ……」

　Aは他人事のようにあいづちを打った。B部長は申し訳なさそうに、「経費削減には当然人件費も含まれる。A君には済まないが、こういう状況なので『定年退職後の再雇用はなし』にしてもらいたい」と言った。

「えっ？『再雇用はなし』ですって？」

　Aは頭の中が真っ白になった。2、3分沈黙し、やっと言葉を絞り出した。

「私が入社してから、定年退職した先輩方は全員再雇用されて元の職場で働いています。なぜ私だけダメなんですか？」
「だから話したように、会社の業績が落ち込む予定だから。昨年までとは状況が違うんだよ」
「しかし管理課は、もし私がいなくなると人手が足りません。今だってギリギリの人数で仕事を回している状態ですよ」
「それは4月から新入社員を2人配置する予定だから心配ない」

　Aは憤慨した。

「再雇用してもらわないと生活ができません。どうにかしてください！」

　Aに激しく抵抗されたB部長は、それ以上話すことができなかった。

「会社には世代交代が必要」社長が説得してみたが……

　Aが応接室から去った後、B部長はC社長に経緯を報告した。C社長はため息をつきながら言った。

「管理課としては業務に慣れたA君に残ってもらい、後任の管理課長の補佐をしてもらえれば助かるが、それでは新入社員が育たない」

　B部長も同意した。

「会社の組織には世代交代が必要です」
「だよな。だからA君には可哀想だが、再雇用はあきらめてもらおう。明日、私が彼を説得するよ」