たばこの臭いは「人それぞれ」では済まされないワケ
こんな話を聞くと、「愛煙家」の皆さんは「差別だ」「日本社会の不寛容はここまできたか」なんて感じで、怒りを通り越して憤りを覚える人もいるかもしれない。
世の中にはシンプルに口が臭い人もいるし、汗臭い人もいる。昼休みにニンニクマシマシのラーメンを食べて、口からニンニク臭をさせている人もいる。そういう他人から発するさまざま匂いにそこまで目くじらをたてずに表面上うまく付き合うという「和を以って日本人となす」みたいな美徳はもうないのか、と。ただ、前出の大和教授はこの問題はそのような次元の話ではないと強調する。
「喫煙者の吐いた息を、口が臭いという問題と混同してはいけない最大の理由は、たばこ臭には発がん性物質を含む有害な化学物質が含まれているからです。受動喫煙のように長期曝露による発がんや心血管系の病気のリスクはまだ明らかではありませんが、企業がまず対策しなくてはいけないのは、お客さんや取引先の社員に、アレルギー症状や気管支喘息の発作を誘発するリスクです」(大和教授)
例えば、ヘビースモーカーの営業マンがいたしよう。この人は外回り中に喫煙所でたびたびたばこを吸っているので、息や体から常にたばこの臭いがしていた。そんな営業マンの上司の元に、得意先企業から「担当者を替えてほしい」と言うクレームが入る。
営業マンはミスや不手際をした覚えもない。一体なぜ急にそんなことを言い出すのかと理由を尋ねると、「たばこ臭いから」。なんと営業マンと毎月打ち合わせなどで対応をしている社員が、営業マンの吐く息で体調を崩して休職をすることになったという。病院でいろいろ検査をしたところ、「化学物質過敏症」と診断された。
実はこの社員、芳香剤や塗料などの化学物質にさらされると、頭痛や吐き気、目や皮膚のかゆみ、喉の痛みなどの症状が出るということで日常にかなり気をつかっていたのだが、喫煙する営業マンの吐くたばこ臭い息でもアレルギー症状が出てしまったというのだ。得意先企業からのクレームに、上司は平謝りするしかなかった――。
これはフィクションだが、大和教授によれば似たようなトラブルは既に現実に起きているという。
「私の知っている女性も、喫煙可のオフィスで事務員をして、勤務中ずっとたばこの煙を吸わされているうちに、化学物資過敏症になってしまい退職に追い込まれて今も苦しんでいます。職場の煙やたばこ臭に耐えられない人は退職せざるを得ないので、社会的な注目が集まりにくいのですが、実はそういう人は一定の割合で存在します。そういう人たちが安心して働くことができるように、企業側も防止に取り組むべきでしょう」(大和教授)