銀行・信金・信組 最後の審判 #7Photo:PIXTA

人口減少と地方経済の低迷で「本業の融資ではもうけられない」と嘆く地方銀行。証券会社との提携などで手っ取り早く利益を出せる仕組み債販売に精を出してきたが、そのパイプは使いづらくなった。とはいえ粘り強く販売を続ける金融機関もあれば、ハイリスクな保険商品の販売にまい進する動きもある。特集『銀行・信金・信組 最後の審判』(全16回)の#7は、顧客の利益に反した手数料稼ぎから離れられない金融機関の宿痾を問う。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)

証券社員でも「仕組み」はほとんど知らない
対象顧客を絞って販売は続く

「投資手法として質が良いわけではないし、必然的に高コスト体質。複雑過ぎて証券会社でも理解している人はほとんどいない」――。

 ある大手証券会社で仕組み債の組成を行っていた経験のある業界関係者は、そうこき下ろす。

 債券にデリバティブの仕組みを組み込んだと説明される仕組み債は、株価指数や特定の銘柄、あるいは為替の価格が一定額で維持されている間は、顧客に通常の債券を上回る利回りが保証される半面、一定以下の価格に下落(ノックイン)すると、基準となっている金融商品で払い戻される。購入時との価格差の分だけ、顧客は損失を被る。

 金融庁は2022年8月31日に公表した「2022事務年度金融行政方針」で、地方銀行傘下の証券会社について「仕組債を含む商品販売の状況やグループ内の銀行との連携状況について対話を行い、ビジネスの中心が仕組債の販売となっている先が少なくないことや、銀証連携の推進に当たって、顧客本位の業務運営の実践や、業務を支える人材育成等に課題がある事例を確認した」と指摘。これを受け、地方銀行だけでなくメガバンクや大手証券などで一斉に販売の在り方を見直す動きが相次いだ。

 前述のように事情をよく知る業界関係者の間では、仕組み債のデメリットや問題点は自明であるし、過去に何度も問題になってきた。

 それでも顧客に販売する際に得られる手数料率は高く、金融庁から「顧客本位の業務運営」を課せられて久しい金融業界にあっても、しつこく販売が続けられてきたのだ。

 メガバンク傘下や独立系の大手証券が軒並み、販売の一部停止や販売対象の顧客を制限するなどの対応を表明したのに対し、あのメガバンクグループは、今も系列の地銀向けの商品供給を続けている。

 一方、中堅証券会社では、東海東京証券を傘下に持つ東海東京フィナンシャル・ホールディングス(FH)や岡三証券グループの仕組み債販売額が前年比で大幅減。とりわけ横浜銀行など地銀との合弁で証券会社を設立し、仕組み債を卸して販売させてきた東海東京FHは、債券のトレーディング損益が直近の23年3月期第3四半期に大きく減った。

 もっとも、傘下に証券会社を持たず、仕組み債を販売しない“行儀の良さ”をアピールしてきた地銀もまた、別のリスクの高い金融商品を販売してきた現実がある。

 顧客のデメリットが著しく大きい仕組み債の問題点を改めて読み解き、「顧客本位の業務運営」に表向きは賛同しつつも、裏では目の前の手数料稼ぎに執念を見せる金融機関の“往生際”に迫る。