市況の悪化が証券会社の業績を直撃。そして「顧客本位の業務運営」という“錦の御旗”の下で販売を進めてきたあの商品にも金融庁がメスを入れた。特集『野村VSメガバンク 市場大乱の死闘』(全7回)の#3では、悪名高い仕組み債のカラクリと共に、個人営業で稼ぐ困難さを探る。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)
金融庁が対策に踏み込んだ「仕組み債」
最悪は地銀、大手証券も例外ではない
「仕組債」――。金融庁が8月31日に公表した「2022事務年度金融行政方針」には、19カ所の記載がある。
本記事で「仕組み債」と表記するこの金融商品は、大幅な値下がりリスクがある半面、オプション取引などを組み込んだ複雑極まる「仕組み」故に、営業員の十分な説明や投資家側の理解が不十分なためトラブルとなりやすく、従来問題視されてきた。
このたび金融庁は行政方針の中で、同庁が今最も強く金融機関に求めている「顧客本位の業務運営」と題した章で「実際にはリスクやコストに見合う利益が得られない場合がある点を踏まえる必要がある」と指摘。販売現場ではなく経営陣が、こうしたリスクを踏まえて販売しているか否か、モニタリングを行う考えを示した。
もっとも金融庁が特に問題視しているのは、大手証券というよりも、地方銀行傘下の証券会社だ。地銀の行員がグループの証券会社の営業員を帯同したり顧客を紹介するなどして販売した結果、顧客は「銀行の人から買ったので低リスクだと考えていた」などと誤解。金融庁に多くの苦情が寄せられているようだ。
「地銀本体の経営陣に仕組み債のリスクを認識しているか聞いてみても、ええ?という感じだった」(金融庁幹部)。販売後のフォローの不十分さもトラブルの原因になっている。
もちろん大手証券会社も仕組み債を組成して自身の顧客に買わせているし、金融商品仲介によって地銀などを通じた販売も行っているため無縁ではない。
ここまでトラブル含みの商品ながら販売が続けられる要因として、組成や販売を行う金融機関の取り分が大きいためとされる。それでも顧客のリターンが高ければまだいいが、年明け以降の株価下落により、損失を被って死屍累々の状況が生まれている。
仕組み債は9月に入って、メガバンクなどが販売を見合わせる動きが出始めた。だが、金融庁の行政方針ではさらに、証券各社が「顧客本位」の錦の御旗の下に全力で販売してきたファンドラップについても、問題視する記述を増加させた。
次ページでは、仕組み債の中でも特に金融庁が問題視しているEB債(他社株転換可能債券)が投資家の資産を大きく毀損するカラクリを、業界最大手である野村證券が販売したある実例を基に解き明かす。
そして仕組み債だけでなくファンドラップにまでメスが入りつつある中でも「顧客本位の業務運営」を続けなければいけない大手証券会社の、個人営業の収益構造の課題を明らかにする。