銀行・信金・信組 最後の審判 #16Photo by Satoru Okada

「地方経済の停滞」を嘆いている暇はない――。リスク商品は販売せず、トップ以下の徹底した営業活動で預金と融資額を拡大してきた広島市信用組合が、信用組合ランキング首位となった。地元では「シシンヨー」の愛称で知られる同信組を率いるのは、多い日は1日10件もの顧客を訪問するという山本明弘理事長だ。特集『銀行・信金・信組 最後の審判』(全16回)の最終回は、その山本理事長に地域経済の課題や協同組織金融機関としての覚悟を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 岡田 悟)

保険などのリスク商品は一切売らない
融資の可否は「3営業日以内」に決定

――広島市信用組合は過去17年間で融資額と預金額を約3倍に増やし、2022年3月期は経常利益が62億円、最終利益が45億円でいずれも過去最高でした。

 私が就任する直前の05年3月末は預金額が2820億円、貸し出しが2313億円でしたが、現在は2022年12月末時点で預金が8598億円、貸し出しが7861億円です。「フットワーク」と「フェイス・トゥ・フェイス」をモットーとした営業活動で規模を拡大してきました。

 保険などのリスク商品は一切売りません。「融資と一緒に投資信託を買ってください」とか、そうした営業は必ず、お客さまとのトラブルにつながります。仕組み債なんて、とんでもない。後継者がいない企業のためのM&Aは否定しませんが、最初からフィーを目当てにしたM&Aを持ち掛けるのもよくない。

 われわれはあくまでも融資一本。お客さまを訪ね、懐に飛び込んで関係を築き、本当に資金を必要とされているお客さまのために、最後のとりでとしてリスクテイクをする。

 そしてスピード。われわれは融資の可否を3営業日以内に決定します。ダメならダメでもいい。心配されているお客さまに素早く結果をお伝えすることが重要です。

 地域密着とか地域貢献をうたう金融機関は多いですが、これが本当の地域貢献ではないですか。全国紙の広島版で「真逆の男」というタイトルの連載をしていただきましたけど、他が真逆なんじゃないですか。

高い預貸率を維持しつつ、収益と健全性を両立させる。しかもその手段は、まさに金融機関の本業である融資一本――。信用組合ランキング首位の広島市信用組合の業績を支えるのは、トップ以下のモーレツな営業体制にある。従業員の待遇は改善し、女性の活躍や登用も進んでいる。今後、実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の貸出先の倒産増加が懸念されるが、山本理事長は「お客さまのニーズに応え、積極的にリスクテイクをしていく」と言い切る。