日常使いが定着する欧米に対し
日本は観光需要が中心

 列車内に自転車が鎮座する様子を想像すると非現実的と思うかもしれない。厳密には折り畳みまたは分解し、カバーに入れることで車内に持ち込む「輪行」と呼ばれる制度が存在し、自転車愛好家が利用しているが、通常の自転車をそのままの形で車内に持ち込むことは認められていない。

 日本ではなじみのないサイクルトレインだが、欧米では広く定着しており、都市によっては路面電車や地下鉄、特急列車などにも折り畳まずに持ち込み可能だ。通学に活用する事例もあるという。搭載方法は車両のフリースペースを利用、自転車専用ラックに固定、あるいは車内に設置された自転車専用車両の連結などさまざまな形態がある。

 翻って日本の取り組みはどうだろうか。自転車の利用方法や構造、受容度は文化的な差異が大きいため単純比較はできない。また欧米と比較して格段に利用者が多い日本の都市鉄道では自転車用のスペースを確保するのは困難だ。

 実際、日本でサイクルトレインを運行する路線は、混雑が起きにくい地方ローカル線に限られている。時間帯や曜日、区間、天候、事前連絡など一定の制約もあるが、熊本電鉄、一畑鉄道、会津鉄道、三岐鉄道、上毛鉄道は原則として全ての列車で実施している。

 1986年の開始から40年近い歴史を持つ熊本電鉄に話を聞いてみると、正確な統計を取っているわけではないが肌感覚で一日当たり10台程度が利用しているそうだ。学校のグラウンドに通う生徒など地元の人の利用が中心で、観光利用は多くないという。ただ熊本市が実施した公共交通や自転車に関する調査はサイクルトレインに言及しておらず、移動の選択肢としての存在感は限定的だ。

 観光色の強いイベント列車であれば都市部にも事例がある。JR東日本は2018年に1両あたり約20台、6両で99台の自転車を搭載できる専用車両「BOSO BICYCLE BASE」を導入し、総武線両国駅から銚子方面、内房線、外房線、成田線など各方面に臨時列車「B.B.BASE」号を運行している。

 両国駅では普段は使われない地平ホームから出発する。これはホームが地平にあることを生かし、道路から段差のない専用ルートで自転車を持ち込めるからだ。

 サイクルトレインは車両への搬入出がネックとなりがちだ。路上にホームがある路面電車やLRT(次世代路面電車)や、スロープ設置で容易に乗り込めるローカル線のホームであればともかく、狭く上下移動を要する駅で自転車を運ぶのは困難だ。この辺りの制約も大きな課題だ。