ゲノム医療の進歩と小児用遺伝子パネル
数々の課題を抱えながらも小児がん医療は、臨床と研究の現場が一体となってのたゆまぬ努力を原動力に着実な進歩を遂げてきた。
近年、最も進んだのは、ゲノム医療(注:遺伝子情報に基づくがんの個別化治療の一つ)だという。がん細胞はゲノム異常で起こるものなので、がん細胞が持っているゲノム異常はその性質と関係しており、そのことを診療に応用するのだ。
小児がんは抗がん剤が有効なものが多いため、正確な診断に基づいて予後の予測を行い、適切な抗がん剤の種類と量を選択することが治癒率を高め、かつ合併症を最小限にとどめることにつながる。また、ゲノム異常によって起こる変化そのものを狙い撃つ薬剤(分子標的薬)も開発されるようになり、ゲノム異常を直接の治療標的として利用することも可能になっている。
「ゲノム医療では、患者さんのがん細胞に起きている遺伝子の異常を調べ、正確な診断と最も効果的な治療を選ぶことが必要で、そのために行うのが『遺伝子パネル検査』です。2019年に成人がんを中心としたパネル検査が保険収載されましたが、小児がんゲノムの特徴を踏まえて、小児がんに特有な遺伝子異常を検出できる新しい遺伝子パネル検査の開発(「JCCG-TOP2」研究)が現在進められており、私は研究代表者になっています。
ただし、検査をするだけでなく、検査をして得られた結果をきちんと解釈する必要があり、それは小児がんにある程度精通していなければできない。そこで構築されたのが、小児がんのゲノム解析に関する専門家に加え、病理診断や遺伝性腫瘍などの専門家も含めた「エキスパートパネル」だ。
「エキスパートパネルによって解析結果を検討し、より役に立つ検査レポートを担当医に届けます。こうした小児がんに対するエキスパートパネルの体制ができたというのも『JCCG-TOP2』研究の一つの大きな成果だと思います」
※JCCG…Japan Children’s Cancer Groupの略で、「日本小児がん研究グループ」の略称。