講演では「そんな面倒なことやってられるか!」と言われるが…

 このようにクッション言葉を使い、依頼形での聞き方をすることで、注意やクレームを受け入れてもらいやすくなります。

 特に前置きとして添えるクッション言葉は、他にもさまざまな場面で役に立ちます。しかし、このクッション言葉について、ある講演会でお伝えしたところ、「そんな面倒なことできるか!」という言葉をいただいたことがありました。元CAの私は保安要員として安全をテーマにお話しすることもあり、その講演会でのことです。

 大きなけがや命を落とすような事故と隣り合わせの現場では、一瞬の気の緩みが命取りになります。とはいえ、人間はミスをする生き物です。だからこそ周囲の仲間が「あれ? いつもと違うぞ」「あれで大丈夫なのか?」と違和感を覚えた時に、躊躇(ちゅうちょ)なく声を上げられる環境が整っていることが大切なのです。

 しかし、自分よりキャリアが上だったり、人の言うことを聞き入れないタイプの相手だったりすると、何も言えなくなってしまう人は少なくありません。そのため、ふだんから風通しの良い職場にしておくことが大切ですが、その方法の一つとして「クッション言葉」が有効だとお伝えしました。

 例を挙げると、相手に聞きづらいことを確認する時は「念のための確認ですが」という一言を加えることで、「あなたの落ち度や能力の話ではなく、私のしたいことはあくまで『確認』です」というニュアンスになります。おそらく相手のミスであることも、「私の勘違いかもしれませんが」という一言を添えるだけで、相手を強く責める気持ちがないことを表すことができます。

 確かに面倒くさいことかもしれません。もちろん、信頼関係が築けている相手であれば、「こんなところに置いたら危ないだろう」「まだ、○○をやっていないのか」という言い方でも問題ないでしょう。

 しかし、人には感情があります。自分に対して雑な言葉を使う人やぞんざいな扱いをする人よりも、手間を惜しまずに伝えてくれる人からの方が、言葉を受け取りやすいはずです。