元JAL CAで、皇室チャーターフライトにも抜擢された経験のある人材育成のプロが、職場の雰囲気を良くするコツを解説。その中に「黒歴史を語る」があるという。その深い理由とは?(人材育成コンサルタント 七條千恵美)
成功体験よりも失敗談をシェアする効果
「お客さまにお配りする茶菓が80個も足りない…」
私がCAだった当時、国内線の普通席でも茶菓のサービスがありました。その日の出発前、機内に搭載されている茶菓の数を報告するのは私の役目でした。
本来は予約数に応じて搭載されている数を合計し、納品書に該当する確認書に書かれた数と照合しなければいけません。ところが何度数えても確認書と合わないのです。これまでは私が計算ミスをしているパターンが多かったため、搭乗時間が迫って焦った私はいけないと思いつつ、確認書の数をそのまま報告してしまったのでした。
ところがこの日に限って私の計算が合っていて、茶菓が80個も足りない事態に。最終的には先輩方に助けられて乗り切ることができましたが、今でも思い出すと冷や汗が出る、私の「黒歴史」です。
前職でCAのサービス訓練教官だった頃、このエピソードをよく訓練生に披露しました。今は研修講師として、受講者にお話しすることもあります。隠しておきたい失敗談をあえて伝えるのは「私と同じような失敗をしないでほしい」という気持ちと、「CAに向いていないのではないか」と悩んでいた新人の時、先輩の「黒歴史」に励まされた経験があるからです。表向きは失敗談をユーモラスに話してくださっただけのように見えましたが、そこに包まれている励ましと優しさを受け取りました。
前職は気がきく人の塊のような職場で、多くの学びがありました。そこで気づいた「気がきく人」の共通点が、「ユーモアのある伝え方ができる」ということでした。
相手を励ましたい時やエールを送りたい時に、自分の失敗談を包み隠さずにユーモアたっぷりにシェアするのもその一つです。聞いた部下や後輩は過度な不安や緊張がほぐれたり、「新人のときは誰でも失敗するものなんだ!」と勇気を持てたりするはずです。「自分の若い頃は、こんなに大変だったけれど頑張ったものだ」と成功体験を話す人よりもむしろ、親近感が湧くのではないでしょうか。