濱口教授は「そもそも弾道ミサイル情報と地震・津波情報などの自然災害を同じプラットホームで処理しているところに無理がある。いくつもの伝達ルートを経由するのでなく、防衛省が直でJアラートを出せるようにすれば、タイムロスも少なくて済む。有事には、正確性や慎重さよりも迅速さが求められるのではないか」として、さらなるシステム改善の必要性を説いている。

 だが、猶予が数分だからといって、やれることがないわけではない。限られた時間の中でも安全を確保する手段を理解しておくことは必要であり、「猶予が短いからこそ、その1~2分で動くか動かないかの差は大きい」という。

 ひとくちに弾道ミサイルといっても、対応策は一つではない。核兵器だけでなく生物・化学兵器などが積まれていることも十分に考えられるからだ。もしも弾道ミサイルが日本に落ちたとき、生き残るためにはどのような備えをしてどのような行動をすればよいのだろうか。Jアラートが鳴る前、鳴った時、鳴った後に、最低限やるべきことについて濱口教授に聞いた。

ミサイルから生き残るために
事前に準備しておくこと

(1)Jアラートが鳴る前:その1 避難場所の目安を付けておく

 数分の猶予を存分に生かすには、平時から「いざというときには、どこに避難すればいいのか」を考えておくことが重要になる。家にいるとき、会社にいるとき、通勤・通学をしているとき、普段の生活エリアなど、状況ごとに複数の安全な避難場所候補を見つくろっておくといいだろう。

 避難場所として、「地下の深い場所」または「堅牢で構造がしっかりしていて、窓の面積がなるべく少ないビル」を濱口教授は勧めている。ただ、VXガスなどの化学剤は空気よりも重い場合が多いため、地下だからといって必ずしも安全なわけではない。

「日本には、気密性・空気の循環システム・水や食料の備蓄といった必要な機能を満たすシェルターや避難施設はありません。爆風を防ぐためには地下への避難は有効ですが、ミサイルに化学剤などのガスが積まれていたときのことを考えると、地下だからというだけで避難先とするのは危険です。できれば、気密性が高くて30メートル以上の深さがある地下であることが望ましいですね」(濱口教授)

(2)Jアラートが鳴る前:その2 マスクや目張りの準備をしておく

 ミサイルにガスなどが積まれていた場合はもちろん、爆風でほこりやちりが舞う中で避難をしなくてはいけなくなった場合にも、鼻・口を覆うマスクは有用だ。今は新型コロナ対策で日常的にマスクを着用していることが多いが、この先は屋内でもマスクの着用が緩和されていくことが想定される。そうなった場合にも、外出時は常にマスクを携帯しておいてほしいと濱口教授はいう。

 また、有毒物質が入ってこないように目張りができるよう、自宅や普段よくいる屋内スペースに、ホームセンターで売っている目張り用のテープを常備しておこう。