ホンダが最後のF1で見せた意地、「ものづくり魂」でたぐり寄せた悲願の栄冠写真はイメージです Photo:PIXTA

「残り1年は、われわれ技術者の意地を見せる1年になる」。2021年のF1世界選手権、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが総合優勝を果たした。ホンダにとっては1991年以来30年ぶりとなるタイトル獲得であり、有終の美を飾る結果となった。ホンダが作ったのは、マシンの心臓部ともいえるパワーユニットである。持てる全てを注ぎ込み、日本のものづくりの粋を世界に見せつけたホンダ技術者たち。その決意と情熱、そして撤退発表から栄冠に至った裏側をお届けする。※本稿は、NHK取材班『ホンダF1 復活した最速のDNA』(幻冬舎)の一部を抜粋・編集したものです。

F1からの撤退発表

 2020年10月2日午後5時、その発表はオンラインで行われた。画面の向こう側に立ったのは、本田技研工業社長の八郷隆弘である。

「ホンダは、このたび、2021年シーズンをもって、FIA(国際自動車連盟)フォーミュラ・ワン世界選手権へのパワーユニットサプライヤーとしての参戦を終了することを決定しました」

(中略)

「自動車業界が100年に一度の大転換期に直面する中、ホンダは、最重要課題である環境への取り組みとして、持続可能な社会を実現するために『2025年カーボンニュートラルの実現』を目指します。そのために、カーボンフリー技術の中心となる燃料電池車(FCV)・バッテリーEV(BEV)など、将来のパワーユニットやエネルギー領域での研究開発に経営資源を重点的に投入していく必要があり、その一環として、今年4月に『先進パワーユニット・エネルギー研究所』も設立しました。F1で培ったエネルギーマネジメント技術や燃料技術、そして研究開発の人材も同様にパワーユニット・エネルギー領域に投入し、将来のカーボンニュートラル実現に集中し取り組んでいくために、今回、F1への参戦を終了するという判断をしました」

(中略)

「モータースポーツ活動を通じて培われたチャレンジング・スピリットをもって、将来のカーボンニュートラル実現という新たな目標に挑戦していきます。(後略)」

 カーボンニュートラル関連の研究開発に、F1に携わる優秀なエンジニアを配置しなければならない。それが最大の理由だった。

新骨格開発を決意

 撤退については、レッドブルに黙っているわけにいかなかった。

 2022年シーズンに参戦するためには、2020年の年末までにどのメーカーのパワーユニットを搭載するかを決定し、書類を準備しなければならない。そのための交渉期間をレッドブルに与えるためにも、できるだけ早く伝えなければならない。

 そこで、2020年8月には、未確定ながら撤退の可能性があることをレッドブルのアドバイザー、ヘルムート・マルコにだけは伝えていた。

 パワーユニットの開発拠点、HRD Sakuraのセンター長、浅木泰昭が撤退を知らされたのは発表の少し前、2020年9月のことだった。そこで真っ先に確認したのは、レッドブルがホンダの撤退を知っているのか、知っているとしたらどのレベルまでなのか、ということだった。浅木は、マルコしか知らないことを確認すると、レッドブルにある探りを入れた。