民主主義にとって最大のリスクとなりうる問題は
ウクライナの敗戦と中国による台湾への軍事侵攻
ダイアモンド ウクライナ支援は、私たちが何者なのかを思い出させてくれる。そして、自由と民主主義を支持することが重要だということも。ひるがえって、プーチン大統領のような独裁者は無意味な破壊的状況を引き起こす。
プーチン大統領に理解を示す米議員は、今やのけ者的存在で、片隅に追いやられている。ウクライナ支援は、米国人が政治的なスタンスの違いを乗り越えて団結するのに役立つ。米国の民主主義にダメージを与えてきた政治的二極化が少しでも緩和されればいいのだが。
2022年12月21日、ウクライナのゼレンスキー大統領がワシントンDCを訪れ、米連邦議会で行った演説は、とても心に迫るものだった。そして、民主党だけでなく、(トランプ派など、長引くウクライナ支援に批判的な議員がいる)共和党からも幅広い超党派の支援を勝ち取った。
――世界の民主主義に少し光が差してきたと言ってもいいのでしょうか。
ダイアモンド そう言っていいだろう。ウクライナ支援だけではない。米国では、2022年11月に行われた中間選挙で、「選挙否定派」の共和党候補者が大敗を喫した。選挙否定派とは、2020年の大統領選でトランプ氏が負けたという事実を頑として受け入れない人々のことだ。
多くの点で、民主主義に以前より光が差してきたと言えるだろう。
――民主主義にとって、2023年に最大のリスクとなりうる問題は何でしょうか。
ダイアモンド 最大のリスクとなりうるものは2つある。
まず、ウクライナの敗戦だ。そして、中国による台湾への軍事侵攻だ。
しかし、ほかにもある。ロシア・ウクライナ戦争の陰に隠れて注目されていないが、南米ペルーなど、他の民主主義政権の崩壊だ。
以前は軍事政権でありながら40年以上前に民政に移管した民主主義国ペルーでは、昨年12月初め、カスティジョ大統領が議会による弾劾で追い落とされ、拘束されたのを機に反政府デモが続き、極めて深刻で身がすくむような政治的危機が起こっている。国が党派的イデオロギーと二極化で引き裂かれ、お粗末な統治で弱体化しているのだ。ペルーのような、南米の中でも国土の大きい国を独裁国家にするわけにはいかない。
一方、世界最大の人口を擁する民主主義国家のインドも、インド人民党(BJP)のモディ政権(によるヒンドゥー至上主義)の下で、非民主的な方向に進んでいる。
――先ほど台湾の話が出ましたが、中国は台湾に全面的な軍事侵略を行うのでしょうか。それとも、海峡を「封鎖」して台湾を孤立させ、エネルギーなどの輸入を阻むつもりでしょうか。
ダイアモンド 中国の習近平国家主席にとって、まずは2024年1月に行われる台湾の総統選挙で誰が勝つかを見極めるのが先だろう。
(中国からの独立を志向する)台湾の民主進歩党(民進党)が勝利を手にできなければ、中国の台湾侵攻は実行可能だ。
中国は最終的に、海峡封鎖で台湾を降伏に追い込むか、全面的な軍事侵攻のいずれかに向けて準備を整えるだろう。地政学専門家の見解は分かれているようだが。
一方、私の見立てでは、中国はロシアのウクライナ侵攻から教訓を学び、軍事行動の長期化を避けるはずだ。軍事行動が長引けば、米国や日本、オーストラリアをはじめとする国々が台湾防衛に回る時間的余裕が生まれるからだ。
いずれにせよ、決断するのは習近平国家主席だが、中国が短期間での台湾再統一を望むならば、驚異的な規模での圧倒的な全面的軍事侵攻になるだろう。
――『侵食される民主主義』には、米国における権威主義的ポピュリズムの台頭や民主主義の衰退などと絡め、当時大統領だったトランプ氏に関する記述もあります。一方、2019年6月の原著刊行時と比べ、現在は状況が変わりましたよね?
ダイアモンド そうだ。なにより、彼はもう大統領ではない。米国の民主主義はまだ危機を脱したわけではないが、当時よりはるかに健全になった。米国は、世界の民主主義にとって、信頼できるパートナーとして復活したのだ。
また、2022年4月に行われたフランスの大統領選では、マクロン大統領が極右のルペン下院議員を破った。ブラジルでは、同年10月の選挙で極右のボルソナロ大統領(当時)が敗れた。そうした国内外の状況を考えると、本の執筆時に比べ、少し希望が出てきた。だが、依然として民主主義には深刻な課題が立ちふさがっている。
――2024年の米国大統領選挙について、お聞きします。仮にトランプ前大統領が共和党予備選挙を勝ち抜いたとしても、中間選挙で同氏支持の候補者らが激戦州で敗北し、予想外に共和党が伸び悩んだことからもわかるように、トランプ氏は本選で無党派層などの十分な支持を得られないという見立てもあります。