2060年には現役世代人口と高齢者人口がほぼ同じに

 先に、「低位推計でも、労働力人口は中位推計とあまり変わらない」と述べた。しかし、これは、2030年頃までのことである。これ以降になると、低位推計では労働力不足が中位推計の場合より深刻化する。

 現役世代の総人口に対する比率は、現在は約6割だが、2060年頃には、これが約5割にまで低下する。そして高齢者人口とほぼ同数になる。

 前項で述べたのと同じ計算を行なうと、現役世代一人当たりの負担は、B/2からBになる。つまり、高齢者の給付を不変とすれば、負担は0.5BからBへと2倍に増えることになる。このような制度は、到底維持できないだろう。

 つまり、現在出生率が低下していることの結果は、40年後、50年後に、きわめて深刻な問題になるのだ。こうした条件の下で日本社会を維持し続けるための準備を、いまから行なう必要がある。

 なお、ここでは社会保障制度を維持するための負担について考えたが、労働力の面から見ても、深刻な問題に直面する。

出生率引き上げより、高齢者や女性の労働力率引き上げが重要

 先に、「現時点で出生率が低下しても、高齢化率や労働力率が大幅に悪化するわけではない」と述べた。このことを逆に言えば、「仮に現時点において出生率を大幅に引き上げられたとしても、将来の高齢化問題や労働力不足問題が解決されるわけではない」ことを意味する。

 出生率を高めることは、さまざまな意味において、日本の重要な課題だ。しかし、それによって社会保障問題や労働力不足問題が緩和されると期待してはならない。近い将来においては、0~14歳人口が増えるために、問題はむしろ悪化するのである。

 将来時点における労働力人口の減少に対処するのは重要な課題だが、そのためには、出生率を引き上げることよりも、高齢者や女性の労働力率を上げることのほうが、はるかに大きな効果を持つ。