出生率が低下しても、労働力人口や高齢者人口は変わらない

 では、最近の出生率低下は、将来の日本にどのような影響を与えるだろうか? とりわけ、人口高齢化との関係では、どうか? 出生率が低下すれば、人口高齢化がますます深刻化することは間違いない。では、いつ頃の時点において、いかなる影響を与えるだろうか? 以下では、仮に「低位推計」が現実化した場合に、高齢化率が「中位推計」からどのように変わるかを見ることとしよう。

 実は、低位推計の結果を見ると、高齢者の数は、2060年頃まで見ても、出生率中位推計の場合と変わらないのだ。これは意外なことと思われるかもしれないが、つぎのように考えれば、当然であると分かるだろう。

 2060年において65歳以上の人とは、1995年以前に生まれた人だ。その人たちは、2040年時点においては、すでに45歳以上になっている。だから、2020年に出生率が低下しても、2060年の高齢者数は影響を受けないのである(ただし、死亡率がいまより低下すれば、総数が増えるなどの影響はある)。

 現役世代人口(=生産年齢人口=15~64歳人口)も、同様の理由によって、2030年までを見る限りは、ほとんど変わらない。2040年になって100万人程度減るだけだ。このように、今回の調査で分かった出生率の低下は、2040年頃までの高齢者数や労働力人口には、ほとんど影響を与えない。

 しかし、以下に述べるように、これは、高齢化問題や労働力不足問題を楽観視してよいことを意味するものではない。出生率が中位推計のままでも、これらは深刻な問題だからである。

 なお、出生率低下が、何の影響ももたらさないわけではない。影響はもちろんある。それは、0~14歳人口が、これまで想定されていたよりは、2040年で2割程度減ることだ。これは、教育関係の諸事項には大きな影響を与えるだろう。

 現在でもすでに、私立大学の定員割れが問題となっている。この問題は、今後さらに深刻さを増すだろう。