インフレや景気後退懸念から、米国株式相場はこのところ上値が重い展開が続く。だが、米著名投資家のケン・フィッシャー氏は、2023年の米国株には、1967年と似た、新たな強気相場の到来が十分あり得るという。特集『総予測2023』の本稿では、その理由を同氏の特別寄稿で解説してもらった。
「歴史は繰り返さないが“韻”を踏む」
66年は懸念一巡後に強気相場の号砲
米国のユーモア作家であるマーク・トウェインは、「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」との言葉を残したとされる。米国の株式相場についていえば、2023年と最も「韻を踏む」歴史は1967年となるだろう。
顕著な景気回復が見られたこの年は、インフレ、景気後退、地域紛争、政治への懸念に満ちた小規模な弱気相場が起きた66年の後に続いた。最近聞き覚えのあるキーワードが並んではいないだろうか?
振り返れば、66年は、序盤から10月初旬までS&P500において緩やかな弱気相場が続いた。
このとき同指数は2割超下落した。この理由は、ベトナム戦争とその反戦運動、米国の中間選挙の年に一党支配から対立の様相を呈した政治、高インフレの悪化、FRB(米国連邦準備制度理事会)による利上げ、大きな景気後退懸念が重しとなったなどだ。
だが、一巡した後は「キャピチュレーション(白旗を上げる)」なしに強気相場が号砲を告げた――通常は弱気相場を終わらせるシグナルとなる「一斉売り」のパニックを経るものだ。しかし、株式相場は第4四半期、ひそかに6%上昇し、翌67年には24%の急騰を見せた。
ところで市場の方向性を考える際は、政治や経済の動向を、現在の投資家心理と比較したい。市場は大抵、将来起こる現実と現在の「期待値の差」で動くからだ。
政治や経済の動向に対する懸念が行き過ぎた場合、ポジティブサプライズが続く。その観点から23年の米国株には、67年と似たような新たな強気相場の到来が示唆されているのだ。
投資家心理の在り方を考えてみよう。伝説の投資家ジョン・テンプルトン卿の遺した言葉に、「強気相場は悲観の中に生まれる」という有名な一節がある。足元ではまさに悲観的な声が多い。何しろ大抵の人が、既に米国は景気後退さなかか、景気後退間近と言う。
米国個人投資家協会が22年11月に行った投資家心理の調査では回答者の47%が弱気で、標準的な30%程度の比率を優に上回った。
世界的にも同じことが当てはまる。日本経済の見通しを測るセンティックス指数は10月にマイナス16.6となり、新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウンやその前の東日本大震災以来の最低値となった。
弱気派はキャピチュレーションの欠如をもって、株式は下がるはずだと言う。そうしたことを訴える人々は、66年に起きたことを忘れているのだろう。悲観的で否定的な予想は、むしろポジティブサプライズと株価上昇を容易にする。
現実は想像以上に良いといえる。なぜか? 以降では、その理由を詳しく説明していこう。