なぜ、“緊急”なのだろう。

 福田首相直々の指示に基づき、政府は社会保障に関する“緊急“対策「5つの安心プラン」を決定した。約160項目に及ぶ施策に関して2009年度予算に反映するとともに、必要な法整備を急ぐという。

 だが、主要5分野である「高齢者政策」「医療体制の強化」「子育て支援」「非正規労働者の支援」「厚労行政の信頼回復」のそれぞれは、諸制度が絡み合うところに複雑な環境変化が影響する構造問題であり、“緊急”に対処すべき、あるいは対処しうるものではない。

 実際、それぞれの政府原案をのぞくと、画期的な解決方法が盛り込まれているわけでもなく、“検討課題“という記述が頻発する。政府が“検討課題とするときは、たいていの場合、審議会などで検討はするけれど実現は難しい、という意味である。

 例えば、高齢者政策に盛り込まれた、「在職老齢年金制度の見直し」と「最低保証年金の創設検討」である。

 「在職老齢年金制度」とは、年金受給者が働いて賃金を得ると、年金受給額がカットされるという制度である。当然、高齢者の就労意欲を低下させるわけで、65歳以上の雇用継続を産業界に働きかけている政府施策と矛盾するから、見直そうというわけだ。

 確かに、労働収入があるからといって年金をカットするのは、年金制度における負担と給付の適合原則に反しているわけで、実は厚労省も改善の必要があることはわかっている。だが、このカット分の総額は2兆円ほどにも上る。厚生年金保険料はおよそ20兆円だから、この制度を廃止してしまうと、計算上は保険料率を1%ほど上げなくてはならなくなってしまう。政策当事者として、身動きが取れないのである。

 どうすればいいか。年金の適合原則を崩さず、同時に、年金と労働収入に二つの収入合計のなかから適切な国庫への負担をしてもらうには、総合課税制度の導入が有用であろう。年金と所得を両方捕捉して、総合課税するのである。そのためには当然、年金制度と税制の一体改革が必要となる。何度も必要性が叫ばれ、だがいっこうに踏み出せない一体改革という難題に、政府与党はどれほど本気で取り組むつもりだというのだろうか。