職場で「どうしてそれを言っちゃうの?」と思われがちな人が見えている世界【28歳・ASDの会社員の例】

 会社の部内飲み会に参加したTさん(28歳・男性)。翌日の朝、みんなの前でいきなり部長にこう言い放ちました。「昨日の飲み会、部長の自慢話長かったですね!いや~、みんな引いてましたよ」。

 本人はまったく悪気はないようですが、部内に一瞬、緊張が走ります。後で同僚から、「相手は部長だぞ。もう少し空気読めよ」と言われ、困惑したとのこと。

 周りに遠慮することなく、いつも事実を口にするTさんは、ASDです。ASDの人は人と会話をするとき、“自分が見ている事実そのもの”を重視し、人間関係などには無頓着なことがあります。相手や周りの人の表情や声の調子、しぐさといった反応を読むことも苦手です。上下関係で発言を変えたりはせず、愛想やお世辞も使わないので、どうしても“空気が読めない人”と思われがちなのです。

 そのため、たとえば会議の終わり際、みんなが片付けを始めていても一人で話し続けたりして、やっぱり“空気が読めない人”と思われてしまうこともあります。

 今回の例でもTさんは「だって本当に長かったよね?」と悪びれません。

「事実を言って何がいけないのか、さっぱりわからない」というTさんの意見をまとめると、次のようになります。

「飲み会で部長の自慢話が本当に長くて、みんなも困っていた。僕はいつも事実を口にしているだけなのに、どうしてみんなから『空気読め』なんて言われるのだろう。それに、もし僕が同じことを言われても、事実だから腹を立てないと思うけれど」

 この「見ている世界の違い」による捉え方の落差が、本人と周りの人たちともに、やりづらさを生み出す原因となってしまうのです。