老いは「より良く生きるためのチャンス」
──真面目な人ほど自分の心身の状態に気づかずに、無理してしまうことが多そうですね。
川野:はい。疲れを感じなくてもいいように無理にテンションを上げてしまうことも少なくありません。
その結果、勢いで乗り切ったように見えて心の方は疲労を蓄積させてしまい、知らず知らずのうちに大きくパフォーマンスを落としていることに気づけないことも多いのです。
だからこそ私は、年齢を重ねることに不安を感じている人に「主体的に幸せを選択していくチャンスだと考えてください」とお伝えするようにしています。
──「主体的に幸せを選択するチャンス」ですか。
川野:はい。若い世代の人は、幸せとは「与えられるもの」、もしくは「戦って勝ち取るもの」という位置づけることが多いように思います。
ある日突然ラッキーな出来事が降ってくる。
あるいは、自分ががんばることで認められることが幸せ、といった感覚です。
一方、年をとると、そうではなくて、自分をいたわったり自分に思いやりを向ける、「セルフ・コンパッション」に基づいた幸せを享受することができるようになると感じています。
──「私もこんなにがんばってきた」というような受けとめ方でしょうか。
川野:そうです。よくがんばったねと。もう少し楽しい過ごし方を自分に提案してあげようとか、おいしいもの食べさせてあげよう、といった発想を持てるようになるということです。
『こころの葛藤はすべて私の味方だ。』の中にも自分を見つめて、ケアするため方法が書かれているので、参考にしてみるとよいかもしれませんね。
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職
精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・医師会認定産業医
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
主な著書に『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)、『半分、減らす。「1/2の心がけ」で、人生はもっと良くなる』(三笠書房)、『精神科医がすすめる 疲れにくい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)、『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。