「私はなぜこんなに生きづらいんだろう」「なぜあの人はあんなことを言うのだろう」。自分と他人の心について知りたいと思うことはないだろうか。そんな人におすすめなのが、『こころの葛藤はすべて私の味方だ。』だ。著者の精神科医のチョン・ドオン氏は精神科、神経科、睡眠医学の専門医として各種メディアで韓国の名医に選ばれている。本書は「心の勉強をしたい人が最初に読むべき本」「カウンセリングや癒しの効果がある」「ネガティブな自分まで受け入れられるようになる」などの感想が多数寄せられている。精神科医で禅僧の川野泰周氏も「著者のチョン・ドオンさんのような分析家の先生だったら、誰でも話を聞いてほしいだろうなと思います」と語る。読者に寄り添い、あたかも実際に精神分析を受けているかのように、自分の本心を探り、心の傷を癒すヒントをくれる1冊。今回は川野氏に「自分の老いとの向き合い方」について聞いた。
集中力、記憶力の低下…自分の「老い」とどう向き合うか
──「最近、集中力が落ちてきた」「前はもっと体力があったのに」など、以前の自分の状態と比べて落ち込んでしまう人もいます。自分の「老い」とどう向き合うのがいいでしょうか。
川野泰周(以下、川野):仏教では「生老病死」という言葉があります。
私たちは誰でも平等に年を重ね、老いていくものです。
ある程度の年齢になれば、だんだんとできなくなることが増えていくのは至極当たり前のことです。
ただ年齢を重ねていろいろな物事を俯瞰して観られるようになるからこそ、「幸せに生きていくためにどうしたらいいか」について、次第に意識が向くようになっていくのです。
──自分がよりよく生きる方向に気持ちが向いているということですね。
川野:はい。たとえば、「ここ数年で集中力が落ちてきた」という感覚を抱いたとします。
そんなときは、「これまでの多忙な働き方は心と身体にかなり負担をかけてきたのだから、これからは段々とペースを落とて、心にゆとりを持って暮らしてみてはどうか?」という自分の心からの「呼びかけ」だと捉えていただくといいでしょう。
年を重ねていくというのは、そうした呼びかけ、つまり自分の「心の声」を聴いてあげることが上手になるということです。
──なるほど。「しんどさ」というのは、心からのSOSだったりするわけですね。
川野:はい。
年をとる、というのは、ただ老化して体力が落ちているということだけでなく、「セルフ・アウェアネス」つまり「自分の心に対する気づきの能力」が上がっていくということ。
「集中力が落ちてきた」という現象に気づくことができている、つまり、年齢を重ねることで、何が自分にとって必要なのかを冷静に見極められるようになったということです。