ネクタイ族や観光客が来る商店街に
筆者の隣に座っていた日本人男性は、ごく普通の“大阪のおじさん”だった。「生ビールを1杯頼んで、1時間で帰る。ここなら1000円で気分転換できる」と話していた。
もっとも「居酒屋」というからには、風営法上の談笑、お酌、デュエットなど客の近くに女性がはべることはできない。しかしながら、「警察が見回りにくると女性はパッと席を離れる」(吉川さん)というように、法律のグレーゾーンをかいくぐる一面も存在する。
それでもこの“おじさん”が商店街の中国資本化に前向きなのはこんな理由があった。
「20年前、ここは若い女性が歩けば手ごめにされた。それでも『あんなところ、行く方が悪い』と一蹴されてしまうほど治安が悪い場所だった。電飾看板もない商店街は真っ暗で、誰もがここを“怖くて危ない街”だと遠ざけていたのです」
18歳まで浪速区(堺筋を挟んで西成区に接する区)に住んでいたという35歳の女性は、「中学のときは行ってはいけないエリアだったあの街に、中国資本が入ってきて経済が回っているというだけでも衝撃です」と話す。
カラオケ居酒屋の客層は当初、あいりん地域の日雇いや生活保護者など地元の人が主流だったが、最近はネクタイ族や観光客も増えてきているという。
前述の通り、この商店街の“化学変化”は、中国人経営の不動産業者が参入してきたことから始まった。近隣の住民は「街はどうなるのか」と警戒したが、それから10年ほどの時間が流れ、“看板の明かりが照らす街並み”に変化した。
今の商店街に問題がないとはいえない。「西成の安い土地を中国人が買って、挙げ句の果てに同じ見てくれの看板が並ぶ」「没個性化もいいところで、こんなところは日本じゃない」など痛烈な批判もある。
だが、日本人だけではどうすることもできなかったこの見捨てられた街に、外資が参入して“新たな発展の形”が生まれたことは見逃せない。かつて横行した「ぼったくりバー」も徐々に淘汰され、今では「明朗会計」「健全経営」と評価される店が増えた。
正直、筆者も「大阪に中国系のガールズバーが占拠する商店街がある」と聞かされたときにはギョッとした。無法地帯を増やすことになるのではないか、とも思った。しかし、現地を訪れ、地元の人の話に耳を傾けると、また別の一面が見えてきた。
もとより大阪は、さまざまな国籍の人々が生活する多様性ある都市だ。“警戒される中国資本”だが、この大阪という土地で、時の推移とともに見せる変化は今後もウオッチに値する。