「勝利」第一になると、楽しめない子どもがいる
今、少子化を上回るペースで子どもたちの野球離れが進んでいることが知られている。さまざまな要因が指摘されているが、スポーツ科学を研究している東京農業大学応用生物科学部准教授の勝亦陽一氏は「勝利至上主義」の悪影響も指摘している。
「少年期では、スポーツに参加し、楽しむ権利は平等であるべきです。しかしながら、少年野球の現場では、背が高く、早熟で、競技を早期に開始した選手が試合に多く出場し、投手や捕手などの重要なポジションを担っています」(東洋経済オンライン 22年1月10日)
つまり、中学、高校、大学という感じで、野球というスポーツを長く続けていくための「先を見据えた指導」ではなく、今このタイミングで、強い少年野球チームをつくるという「目先の勝利をつかむ指導」をしている。そのため、野球を始めたのが遅い少年や、まだ体格や運動神経が未成熟の少年たちが、「お荷物」扱いされてしまっているというわけだ。
ご存じのように、全国の少年野球を支えているのは、かつて少年野球をしていた大人たちだ。今回のWBCに胸を踊らせて、「世界一」に熱狂をしていたファンでもある。そういう大人が地域の子どもを指導する時、「勝利」に執着した指導になるのは当然だろう。
大谷翔平選手を目指している子どもの夢を応援したい。WBCに感動をした子どもたちのためにも、なんとかチームで勝利を経験させてあげたい――。
このような元野球少年たちの「善意」は、恵まれた体格やセンスのある子どもには成長をしていくチャンスになるのでありがたい。しかし、ドラえもんの「のび太」のように運動神経が悪いような子どもにとっては、野球のうまい子に合わせた指導についていけないので、「野球離れ」していくきっかけになってしまうのだ。
スポーツは勝負事なので、勝利にこだわらないと意味はない。しかし、少年期にそれを過度にやってしまうと、選ばれた者だけがやる特殊なスポーツになって、結果、少年たちから敬遠されてしまう。この負のスパイラルが、野球人口の激減につながっている可能性があるのだ。