政府から認定を受けた施設でも
公的支援はない

 私がカンボジア西北部のシェムリアップ州で運営する児童養護施設では、主に虐待から保護された子どもを受け入れ、高校卒業まで養育しています。1998年の設立と同時に政府への団体登録は済ませていたものの公的補助金は一切ないままの運営で、これまでに100人近くの子どもの養育に携わってきました。

 現在に至るまで、その運営は寄付金によって支えられています。私たちの団体に限らずカンボジアにある多くの施設は、政府から認定を受けた施設でも公的支援は得られず、活動に賛同してくれる個人による支援で運営が成り立っています。

 そのため、支援者に寄付金の使途を詳細に報告することで、適切に子どもたちの生活や教育に生かされていることを理解していただき、それが継続支援につながり、結果的に施設で暮らす子どもたちの生活、教育環境の維持、向上につながっています。

 ハード、ソフトの両面が整備不足だった創立時とは異なり、現在子どもたちを育むための総合的な環境が整い、行政と業務連携ができるまでになったのは長期にわたる継続支援を得ることができているからです。そのため、日本人や欧米人の支援者とのコミュニケーションは私が担う重要な役割の一つになっています。

寄付金欲しさに子どもたちの身なりを
わざと貧しいものにする施設も

 福祉行政関係者からの話によると、2021年時点で私たちの活動地であるシェムリアップ州で政府から認証を受けている施設は11施設のみであるとのことでした。政府の認証を受けていない施設では、子どもたちが劣悪な環境に置かれ、ときには法に抵触するような扱いを受けることもあります。

 同関係者から、ある施設運営者が寄付金を横領して購入した不動産で宿泊施設を経営し、子どもたちにベッドメーキングなどの労働をさせていたという信じがたいケースを聞いたこともあります。近年、福祉局の定期的な査察により問題が明るみになった施設は閉鎖されていっています。私が聞いたこの施設も子どもにさせていたことが児童労働にあたるとされ、すでに閉鎖されたとのことでした。

 また、前述したように毎年のように子どもたちへの性的虐待や養子縁組に見せかけた人身売買まがいでの摘発が報道されています。このような問題について取り締まりが進まなかったのは、1975年に発足したポルポト政権以降、混乱の続いたカンボジア社会で子どもの権利に関する法整備の優先順位が低かったことが背景にあると考えられます。

 ここまでひどい状況ではなくとも、最低限の食事と公立学校への就学支援以外は子どもたちが何をしていようと放置していたり、より多くの寄付を求めて子どもたちの身なりをわざと貧しいものにするというような施設があるのを耳にしたこともあります。

「デヴィ夫人が孤児の里親に」で話題だが…カンボジア養護施設の知られざる“闇”と実態児童養護施設スナーダイ・クマエでの自習時間の様子(著者撮影)
「デヴィ夫人が孤児の里親に」で話題だが…カンボジア養護施設の知られざる“闇”と実態児童養護施設スナーダイ・クマエの図書室(著者撮影)