松山一雄・アサヒビール社長Photo by Kazutoshi Sumitomo

アサヒビールの社長が、3月16日に4年ぶりに交代した。新社長は、日用品大手のP&Gジャパンやラベルプリンター大手のサトーホールディングス社長などを経て2018年に入社した松山一雄氏だ。アサヒビールで37年ぶりの“外様社長”となる松山氏が就任早々力説するのは「早く安く賢く失敗」する重要性で、目指すは社内にはびこる、あしき“前例踏襲”からの脱却だ。松山新社長を直撃した。(ダイヤモンド編集部 山本興陽、下本菜実)

2022年末の社長打診は「そう来たか」と驚き
外部入社で「風土変えた」点が評価された

――アサヒビールの社長就任はいつ打診されたのですか。

 2022年のクリスマスイブ直前、アサヒグループジャパンの濱田賢司社長から伝えられました。定例の1on1ミーティングをいつも通り始めようとしたら、濱田社長から、「今日は最初にお知らせがあります。アサヒビール社長をお願いしたいです」と。思わず、「本当ですか?」と聞き返しました。

 そろそろ、クリスマスイブのローストチキンの準備でもしようかなと思っていた頃でしたね(笑)。年末ムードは一気に吹っ飛びました。ただ、嫌な感じや「困ったな」という感情は全然なく、「そう来たか」という印象です。

――内心では、「次の社長は私だ」と思っていたのではないですか。

 そもそもアサヒビールに入社した目的は社長業ではありません。マーケティングとマーケティング組織改革をやるためです。一番重要なのは、私がアサヒビールを辞めても、組織が「強く、持続可能な形」で発展していくことです。

 私の中ではマーケティングと企業経営はかなり近く、目的とするところは同じだと思っています。マーケティング本部という機能組織の中でやるのか、それとも経営トップとして全社を巻き込んでやるのかとなったら、当然、全社を巻き込んでやった方が、より質の高いマーケティングができるんじゃないかなと思いましたし、違和感はなかったです。

――塩澤賢一前社長と平野伸一元社長は共に営業畑です。マーケティング畑の松山氏が社長指名された人事の意図は何だと思いますか。

 当然、アサヒグループジャパンの中に、指名委員会のような組織がありますし、ホールディングスとも相談して決めたと聞いていますが、詳細な内容は伝えられていません。

 ただ、私自身が思うに、アサヒビールが「変わらないといけない」という状況下で、マーケティングを中心にして、「風土を変えた」点が評価されたのだと思います。単純に営業や何かの機能を強化というよりも、組織自体を変えて、強くしました。私が18年9月に外部から入社したことによって、「挑戦のDNA」に今一度ギアが入ったのかなと考えています。

――中途入社の松山さんから見た具体的な風土の問題点は。

 スーパードライを創造したことから、アサヒビールにはチャレンジャー精神もありましたし、イノベーションも起こしたわけです。ただし、ビール類市場が縮小していく中では、「守り」に入っていました。(業績や販売数量などの)数字面よりも、守りに入ってしまう点が問題です。

外様でありながらも「風土を変えた」点が評価されたと自任する松山新社長。守りに入っていたアサヒビールが変革していくには、「早く安く賢く失敗」することが重要だと説く。次ページでは社内にはびこる、あしき“前例踏襲”の実態と、早く安く賢く失敗する方法を松山氏が激白した。