1987年、大韓航空機爆破事件が発生

 金大中拉致事件は韓国国内での内紛によるものでしたが、1970年代には、日本が北朝鮮の工作の舞台になりました。国交のない北朝鮮は外交官を日本に派遣することができません。そのため、かつては工作員を密入国で送り込んだり、脱北者を装いながら実は工作員だったり、朝鮮総連を通じて在日韓国人・朝鮮人をエージェントとしてスカウトするようなこともあったようです。

 潜伏している工作員に対する指令なのではないか、と言われているのが、北朝鮮のラジオを通じた乱数放送です。北朝鮮は一時、ラジオを通じて、「平壌放送です。○○号電文を読み上げます」と述べたうえで、延々と数字を読み上げていく放送を行っていました。工作員はこれを解読する書物を持っていて、読み上げられた数字をもとに暗号を解読し、指令を受け取るのです。たとえば「34…18…6」だとすると、あらかじめ受け取っている書物の「34ページの上から18行目の文頭から6番目の文字」というように、この文字を抜き出して並べると、本国からの指令の文章になるというわけです。1970年代に多く流されていたこの乱数放送は一度途絶えたものの、2016年に再開されて話題になりました。

 北朝鮮による事件で最も衝撃的なのは、日本人拉致事件でした。1970年代、日本海側を中心に、各地で不可解な失踪事件や行方不明事件が起きていました。しかし各地で起きている失踪が、互いに関連性のあるものだという視点は警察にはなく、ましてや外国に拉致されていた、などとは思いもよらなかったため、関連付けた捜査は行われていなかったのです。

 ところが1987年、大韓航空機爆破事件が発生します。バグダッド発アブダビ・バンコク経由ソウル行きの大韓航空機がミャンマー近くのアンダマン海上空で空中爆発を起こします。状況から見て明らかにテロ事件でした。調べると、アブダビで降りた不審な「日本人親子」がいたことがわかります。2人はアブダビで降りた後、バーレーンに飛んでいます。バーレーンの日本大使館員が、バーレーンの警察官とともに、空港で2人を発見。事情聴取をしようとしたところ、「父親」は持っていた青酸カリの入ったアンプルを噛み割って、その場で死亡。「娘」も同様のことをしようとしたところで、警察官が口の中に指を突っ込んでアンプルを吐き出させたため、女性は自殺ができないまま逮捕されました。

 2人はバグダッドで搭乗した後、爆弾を仕込んだラジカセを客室の荷物入れに収納し、アブダビで降りていたのです。