貧困家庭に生まれて成功した人は寿命が短くなる
欠乏にさらされながら高いパフォーマンスを維持するには、意志のちからで「このままでは死んでしまう!」という警報を止めなくてはならない。貧困家庭に生まれ、社会的・経済的に成功した者は、その代償として心疾患などさまざまな病気を発症して老化が早まり、寿命が短くなるとの不穏な研究がある。過度の意志力を使ったことがストレスになり、健康を損ねてしまうというのだ。
この知見は、貧困をなくすための政策を擁護する強力な理由になる。だが現実には、母子家庭を中心に、日本にもいまだに「お金の欠乏」に苦しめられているひとたちがたくさんいる。
こうした事態に国や行政の支援が必要なのはもちろんだが、それが届かないのであれば、いつまでも待っているのではなく自分でなんとかしなければならない。これが、幸福の土台として「金融資本」が重要になる理由だ。
お金が幸福と結びつくのは、ミシュランの星付きレストランで食事をしたり、ブランドものを身にまとったり、豪邸に住んでスーパーカーを乗りまわせるから(だけ)ではない。じゅうぶんな金融資本があれば、「お金が足りない」という警報が鳴らないようにできる。それによって余裕が生まれ、身心にストレスをかけずにパフォーマンスが上がり、成功へとつながるのだ。
それに対して「時間の欠乏」には、この効果的な方法が使えない。誰であれ、1日を48時間や64時間に延ばすことはできない。こうして年収数千万円、あるいは数億円のビジネス・エグゼクティブが、時間に追われストレスに苛(さいな)まれることになる。彼ら/彼女たちの頭のなかには、大音量で「このままでは死んでしまう!」という警報が鳴り響いているのだ。
作家
2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)など。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。毎週木曜日にメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」を配信。