住んでいる地域に関係なく平等に
子どもの医療費が助成される制度へ転換すべき
医療制度は、病気やケガをした人が治療を受けることで健康を取り戻し、再び社会で活躍できるようにするための「防貧機能」として存在している。この制度を支えているのは、経済的な能力に応じて財源を負担し、必要に応じて利用するという、応能負担の原則だ。
だが、子どもの医療費助成制度は、この応能負担の原則が守られておらず、その子どもの医療の必要度に関係なく、住んでいる地域によって受けられる助成が左右される。
自分が住んでいる自治体が、所得制限なしで、自己負担もない制度なら、経済的に困っていない人の子どもも無償で医療を受けられる。反対に、自分が住んでいる自治体の制度が、厳しい所得制限と自己負担のあるものなら、所得制限ギリギリのラインにいる低所得層は助成を受けられず、本当に治療が必要な子どもに受診控えが起きる可能性もある。
また、子どもの医療費助成制度は、国の医療費増加の遠因のひとつにも挙げられている。自己負担なしで医療を受けられる地域では、受診の必要性は高くなくても「タダだから、とりあえず診てもらおう」という「念のため」の過剰受診を起こす土壌を作り出すからだ。
子どもの医療費の自己負担分は、病院や診療所がサービスで無償にしてくれているわけではなく、公費で肩代わりしている。受診回数が増えれば、公費で負担している自己負担部分だけではなく、当然のことながら健康保険組合の負担も増加する。そして、それは税金や社会保険料という形で社会全体に跳ね返ってくる。
1961年に、岩手県の沢内村で始まった乳幼児の医療費助成制度は、90年代中旬までに全ての都道府県で導入された。その後、財政力のある都市部を中心に対象年齢が引き上げられるようになり、助成額も徐々に拡大。現在では、「自治体の財政力による助成内容の格差」「国の医療費増加の遠因」という問題が生じるようになっている。
とはいえ、子どもの医療費助成制度は、すでに社会に浸透しており、重要な子育て支援策のひとつとなっている。いつまでも、自治体間で助成内容を競わせる事業のまま、放置しておいてよいはずはない。
岸田首相は、この4月に発足する「こども家庭庁」で、少子化対策に必要な政策を体系的に取りまとめ、「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」に、子ども関連予算の倍増を盛り込むことを表明している。
子どもの医療費助成制度についても、国が明確な予算を付けることで、この国で暮らす全ての子どもが、必要に応じて平等な助成や給付を受けられる制度への転換を目指してほしいと思う。同時に、国の医療費全体への影響も考えながら、適正に利用するための仕組みも規定するべきではないだろうか。