50代のリスキリングでは
「若者の当たり前」を学ぶべきだ

 さて、そうなると企業が提供する50代のリスキリングは何をすればよいのでしょうか。

 残酷な話をしますと「若者が当たり前のようにできることを再教育で学習させる必要がある」というのが真実であり、現実ではないかと私は思っています。

 たとえば高校の授業に「情報 I」という科目があります。昨年の4月からスタートした必修科目です。最近の高校生はこの科目を当然のように勉強しています。勉強することで「情報デザイン」「プログラミング」「データの活用」のスキルが身に付き、そのスキルを活用することで「問題を解決する能力」を身に付けられます。

 私も興味があったので、教科書販売店に出向いて出版社の異なる「情報 I」の教科書を2冊ほど買ってみました。それで感じた感想は「40代以降のビジネスパーソンは全員、会社で『情報 I』をリスキリングしたほうがいい」というものです。

 40代以降のビジネスパーソンの多くは、学生時代にパソコンはあってもインターネットにつながっていなかった世代です。ポケベルはあってもまだ携帯は持ってなかった世代といってもいいかもしれません。その後、インターネットやスマホが登場し、体験的にネットの利用からセキュリティーまで独学で学んできた世代です。ある意味でスキルには抜け漏れがたくさんある世代でもあります。

 それで50歳のビジネスパーソンが70歳まで今の職場で働くということを想定した場合、20代のビジネスパーソンが当たり前のように獲得しているデジタルリテラシーについては、基本の部分についてリスキリングしてもらわないと、職場のお荷物になってしまうと考えるのです。

 たとえば自宅のパソコンが思うように動いてくれない場合、20代のビジネスパーソンは当然のようにググって解決策を自力で見つけ出します。

 Zoomはもう誰でも使えるようになったと思いますが、同じようなDXの新しいツールが登場したら20代は当然のようにチュートリアルを使って短期間に使いこなせるようにします。こういったスキルは、職場での新しい仕事のやり方への対応力そのものです。

 この新しいことへの対応は、20代にとっては空気を吸うのと同じくらい自然にできることなのですが、同じことが50代にとっては学習地獄に思えてしまいます。

 学ぶのが地獄だからこそ、これまでは学ばずに部下に代わりにやらせていた。その前提が崩れてしまうのがこれから始まる70歳までの雇用延長制度です。

 一部の役員になれる人を除けばこれからは40代で管理職を卒業し、50代、60代はまたイチ社員として組織に貢献しなければならない。そのためには20代、30代の仕事のやり方を再学習しなければいけない。それも20代、30代と比べてあきらかに遅いスピードで、それでも仕事のスキルとして身に付けなければならないのです。

 プライドをもって働いてきた元管理職の50代にとってはある意味、非常につらいことでしょう。

 その新しい現実がこれから始まるというほうが、リスキリングについて正しい認識になるのではないかと私は思うのです。