昨今、企業にはステークホルダーとの対話がより一層求められている。本連載では、企業の代表やアセットオーナーなどへのインタビューを通じ、ステークホルダーとの対話や対外戦略におけるヒントを12回にわたって届けたい。1回目は、国内で年金資産を管理・運用する機関投資家で、唯一インハウスで国内株式を運用している企業年金連合会の北後健一郎氏。
ガバナンス改革の現在地
──国内上場企業コーポレートガバナンス改革について、アセットオーナーの視点からどのように評価していますか
日本はアベノミクスの下でコーポレートガバナンスの改善に取り組んできたわけだが、投資家の目線で評価すれば「株価が成績表」ということになる。残念ながら、株価は満足できるものとは言えない。株価指標の絶対値こそ2012年の底値から現在の水準まで上昇しているが、海外の株価指標と比べて見劣りするし、割安指標としてのPBRも相変わらず著しく低い。国内企業の業績や資本効率はこの10年で改善しているにもかかわらず株価で評価されていないのは、ガバナンスが目に見えるかたちで改善されていないからではないか。
──ガバナンス改革に向けて、アクションが求められる課題とは何ですか
まず、政策保有株式の取り扱いを考えるべきだ。政策保有株式は被保有企業から見れば経営の良し悪しにかかわらず経営陣に賛成する安定株主であり、その存在が株主総会の形骸化につながるからだ。世の株主が企業を構成するステークホルダーとして長期的な視点で真剣な声を聞いてほしいと思ったときに、その声を届けられる場は株主総会だ。その存在意義が問われるような現状を生み出している政策保有株式が一番の問題であると考えている。
足元では国内企業でも政策保有株式の縮減が進み、ポジティブな流れとなっているが、まだ売りにくい株式が根強く残っている。政策保有を解消した企業に対しては、株価上昇によりマーケットがポジティブな反応をするようなインセンティブが必要だ。
次に、他の先進国ではほとんど見られない親子上場は日本特有の問題と言える。安いコストで支配されている上場子会社が目につく。たとえ保有比率は51%であっても、実質的には100%の支配権を手にしていると株主には見えてしまう。