社外取「欺瞞のバブル」9400人の全序列#8Photo:Bloomberg/gettyimages

東芝が再建の切り札として打ち出した会社分割案は3月の臨時株主総会で否決された。投資家は執行部の保身ともいえるお粗末な一手を見逃さなかった。だが、そもそも東芝には「物言う株主」が推薦する社外取締役が存在するにもかかわらず、なぜ会社寄りの再建案が出されたのか。およそ3週間にわたり公開予定の特集『社外取「欺瞞のバブル」9400人の全序列』の#8では、ガバナンス不全を引き起こす東芝の宿痾について明らかにしていく。(ジャーナリスト 大西康之)

執行部保身の「本体分割案」
社外取への「おもてなし」?

「一体全体、東芝の中で何が起きているんだ!」

 2021年11月12日、東芝がインフラ、デバイス、本体の3分割案を発表したとき、海外の株主から驚きの声が上がった。

 海外投資家は「もう少しまともな再建案が出てくるはず」と期待していた。なぜなら再建案を策定していた戦略委員会(SRC)の委員長が、ファンドが社外取締役として送り込んだポール・ブロフ氏だったからだ。

 世界有数の会計事務所KPMGの元パートナーのブロフ氏は「資本の論理」を正しく理解した人物と評価され、東芝の大株主である米資産運用会社ファラロン・キャピタル・マネジメントなどの推薦で東芝の社外取締役に就任した。

 コンサルタントとしてイオンのIT・物流改革に貢献し、長年同社の実質ナンバー2を務めてきた、米コンサル会社カート・サーモン・アソシエイツCEO(最高経営責任者)のジェリー・ブラック氏、米ゴールドマン・サックスやファラロンを経て投資ファンドを設立したレイモンド・ゼイジⅢ氏ら、SRCのその他のメンバーも「株主利益」の意味を理解しているはずの社外取締役で構成していた。

 にもかかわらず会社執行部の保身を優先するような再建案が出てきたことに、東芝の株を保有する海外ファンド関係者は驚いた。その中の1人は、このとき感じた違和感をこう説明する。

「3分割というのは小さな東芝が三つできるだけで、企業価値の向上には全くつながらない。上場企業の社長の椅子が三つに増えるだけです」

 東芝の取締役会や、SRC、指名委員会、報酬委員会は、株主の利益を代弁するために送り込まれた社外取締役が主導権を握っていた。

 8人の取締役の中で東芝の執行部から選出されたのは社長の綱川智氏と副社長の畠澤守氏の2人だけ。重要方針を決める各委員会の委員長には全て、社外取締役が就任していた。

 にもかかわらず、なぜ経営陣寄りの再建案が生まれたのか。前出の海外ファンド関係者はこう解説する。

「われわれは、東芝の経営陣による社外取締役への強烈な『おもてなし』によるものだと考えています」

 最たるものが報酬だ。